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2019年 日露平和条約交渉、重大局面へ

2019年1月1日 21:08

日本外務省の秘密文書には「北方領土が返還される際、そこにアメリカ軍施設を設置しないとロシア側に約束することは、日米安保条約・地位協定から問題がある」との趣旨が書かれているという。秘密文書は、1960年の日米安保条約の改定に伴って成立した「日米地位協定」の運用に関する文書で、沖縄メディアの琉球新報が2004年にすっぱ抜いた。

ロシアのプーチン大統領が日本に突きつけているのはまさにこの点で、「返還後に米軍基地がつくられる可能性があるとすれば、交渉は難しい」との立場だ。2018年12月の記者会見では、沖縄の米軍基地を例に挙げ、「この種の決定に日本にどの程度の主権があるかがわからない」と述べ、日本は安全保障の分野でアメリカの言いなりではないかと疑問を投げかけた。

その上で、「平和条約締結後に何が行われるのかがわからない。その質問への答えがなければ、決定的な判断は非常に難しい」と述べ、日ソ共同宣言に基づいて色丹島と歯舞群島を引き渡したとしても、島にアメリカ軍の施設を置かない確約が必要との考えを示した。日本は、「領土と安全保障」という難問を迫られている。

交渉をめぐるもう一つの課題は、歴史認識の問題だ。平和条約交渉のロシア側責任者となったラブロフ外相は2018年12月、「ロシアが日ソ共同宣言を基礎にするというときは、日本が第2次世界大戦の結果を無条件に受け入れることを意味する」と主張した。要するに、北方領土は戦争の結果、合法的にソ連(ロシア)の領土になったという認識で、北方領土を固有の領土とする日本側の立場とは真っ向から対立する。しかも、ラブロフ外相は「これを認めることが不可分の第一歩」とまで述べている。

なぜ、ロシアはこれほど強硬的な姿勢を見せているのか。日本への揺さぶりと同時に、領土の引き渡しを巡るロシア世論の反発を警戒していることもあるだろう。プーチン大統領の最新の支持率は66パーセント(独立系世論調査機関「レバダセンター」調べ)。クリミア編入を機に80パーセントを超えていた支持率にも陰りが見えている。受給開始年齢の引き上げを軸にした年金制度改革や経済低迷、長期政権への嫌気などから、国民の政権に対する目は厳しい。北方領土を巡って「弱気」の姿勢は見せにくい状況だ。

ただ、プーチン大統領が重視する日ソ共同宣言を交渉加速化の基礎としたことで、ロシア側も話し合う構えは見せている。2018年12月の首脳会談では、両外務大臣を交渉責任者とすることで一致した。これによって、これまで経済面に重心が置かれていた交渉が、外務省を軸にした平和条約という“本線”に戻ってきた。

難しい交渉になることは確実だが、一定の枠組みはできつつあるといえる。2019年6月には大阪でのG20開催に合わせて、プーチン大統領の3年ぶりの来日が見込まれる。ここで平和条約交渉に大きな進展を実現できるかが現時点での最大の焦点だ。2019年、交渉は新たな重要局面を迎える。