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超巨大地震からどう命守る「新」防災最前線

2019年1月1日 21:06
超巨大地震からどう命守る「新」防災最前線

 東日本大震災の発生からまもなく8年。国が今、力を入れているのが今後30年以内に「70%~80%程度」の確率で起きるとされる「南海トラフ巨大地震」への対策だ。

 震度6以上の強い揺れが広い範囲を襲い、関東から九州の太平洋沿岸に押し寄せる津波は最大で34メートルにも達する。最悪の場合、32万人の死者が出ると想定されている。

■国が新たに示した住民の対応

 犠牲者を1人でも減らすためにはどうすればいいのか。現在の科学では「地震の予知」はできないというのが国のスタンスだ。しかしいつ、どこで地震が起きるかはわからないまでも、「普段よりも可能性が高まっている」ことには言及できるとして、国は2018年12月、「南海トラフ巨大地震が起きる可能性が高まった」3つのケースを想定し、ケースごとに住民が取るべき行動を示した。

(1)「南海トラフの片側でマグニチュード8 連動の恐れ 念のため1週間程度避難も」

 東海から九州沖にまでまたがる巨大な海底の溝、南海トラフ。その片側でマグニチュード8以上の大きな地震が起き、気象庁が「もう片側でも連動して地震が起きる可能性がある」と発表した場合、一部の住民は念のため避難する必要があるとした。対象となるのは新たな地震が起きてからでは津波からの避難が間に合わない地域に住む人や、避難に時間がかかる高齢者などで、目安は30分以内に30センチの津波が来る地域となる。

 南海トラフでは実際に、江戸時代末期の1854年に東側の駿河湾から紀伊半島南東沖までを震源とする大地震が起き、そのわずか32時間後に西側の紀伊半島から四国沖を震源とする大きな地震が起きている。

 このケースでは、連動して起きた地震が2年後だった例もあるが、国は自治体などへの調査をもとに、社会的な影響を考慮して避難する期間は「1週間程度」とした。

(2)「南海トラフでマグニチュード7程度の地震発生 前震か?」

 ケース(1)よりひとまわり小さいマグニチュード7程度の地震が起きた場合の対応だ。

 実は、東日本大震災が起きた2011年3月11日の2日前の3月9日、同じ三陸沖でマグニチュード7のひと回り小さい地震が起きていた。この地震が東日本大震災の「前震」だったとみられている。

 こうしたことも踏まえ、国は、「大規模地震発生の可能性が相対的に高まっている」として備えと警戒を呼びかけることにした。具体的には、家具の固定や懐中電灯・ラジオの確認などを再確認しておく必要があるという。ただこのケースでは「事前避難」までは求めないことにした。

(3)地下のプレート境界で「ゆっくりすべり」現象

 南海トラフの地下のプレート境界で、これまでにないような「ゆっくりすべり」と呼ばれる異常な現象が起きた場合にも、国は念のため、地震への備えを再確認するよう呼びかけることに決めた。

■「呼びかけ」で起こること

 国は私たち住民が取るべき行動を示したものの、「南海トラフ巨大地震が起きる可能性が高まっている」という情報自体、確度が高いものではないとして、「企業活動を制限するものではない」と説明している。かつて「地震の予知ができる」とされていた時代のように、国が高速道路の通行を規制したり、新幹線を止めることもない。

 しかし、特に事前避難を呼びかける(1)のケースで影響が出ることは避けられない。

 原子力規制委員会の更田委員長は、被害が出ていない地域の住民にも国が避難を呼びかけるような場合には、その地域の原子力発電所の「運転停止を求める」との考えを、2018年12月の定例会見で示した。

 子供たちが通う学校はどうだろうか。少なくとも、すぐに津波が押し寄せるような沿岸の町にある学校は、国が地震の連動に備えて1週間程度の避難を呼びかけた場合、「避難所」となることが考えられ、休校が想定される。子供が学校に行けなくなれば、親の仕事に影響を及ぼす可能性もある。

 仮に沿岸部にある病院が営業を取りやめるようなことがあれば、地域の医療に大きな影響が出かねない。

 さらにケース(2)や(3)のように、ケース(1)に比べて大規模地震が起きる確率が低い場合でも、国が「地震への備え」をうながす情報を出すことによって、情報を正しく理解しない住民があわてて避難したり、食料品を買い占めたりと、社会にパニックが起きる恐れも否定できない。

 国は2019年度に、自治体はどのように住民に避難などの対応を促し、学校や病院、高齢者施設などの機関はどう対応するべきかなども示す「ガイドライン」を作成するとしている。混乱を防ぐためにも早急な策定が必要だ。この「ガイドライン」を受けて各自治体は、地域の特性に応じた具体的な対応を検討していくことになる。私たち国民も、冷静な行動が取れるよう、国や自治体が出す情報を正しく理解することが求められる。

■「地震予知」へ続く研究

 一方、国の研究機関は「地震予知」の分野に挑戦し続けている。JAMSTEC(=海洋研究開発機構)の掘削船「ちきゅう」が、世界で初めてとなる調査に向けて、2018年10月、静岡県の清水港を出港した。

 「ちきゅう」が行うのは、南海トラフ巨大地震を引き起こすプレート境界部の岩石などを採取すること。その「コア」と呼ばれる岩石を詳しく調べることで、未解明な部分が多い南海トラフ巨大地震のメカニズムや、その切迫性が明らかになる可能性があるという。現在、紀伊半島沖で掘削作業を続けていて、2019年2月にも海底下5200メートルのプレート境界に到達する予定だ。

 JAMSTEC地球深部探査センターの倉本真一理学博士は、「人類で初めて巨大地震を発生させる物質を取り出す。そこにどれだけの力が加わっていて、あとどれだけの力を加えれば破壊に至るか。地震が起きるのかということが世界で初めてわかるはず」だと、掘削の意義を強調している。

 海底下5200メートルという未知の領域だけに、掘削中の穴が崩れたり、低気圧が接近するなどの困難も予想されるが、地震を引き起こす岩盤そのものを取り出し今後の防災研究へ生かす試みを、世界中が注目している。