「OriHimeは分身」ALS患者の希望
テレワークなどに利用される遠隔操作型ロボットを、ALS患者のコミュニケーションツールとして使うための研究が続いています。ALS患者の大きな希望――小さなロボット“OriHime(オリヒメ)”を取材しました。
■意識はハッキリ 体は動かない難病“ALS”
もともとOriHimeは、人と人をつなぐロボットとして開発されました。胴体部分にあるマイクとスピーカー、そして顔のカメラを使い、インターネット回線を通して、その場所に行けなくても離れた人とコミュニケーションを取ることが可能です。
しかし、遠隔操作をするためには、使用者がスマホやパソコン画面を指で動かす必要がありました。
ALS(=筋萎縮性側索硬化症)は、意識はハッキリしたまま徐々に全身の筋力が奪われ、最終的には人工呼吸器が必要になる難病です。眼球以外はほとんど動かせない患者もいます。
そのため、眼球の動きで透明の文字盤のどこを見ているかを読み取り、それをメモすることでしか会話ができませんでした。
■目線だけで文字入力、音声も
そこで、OriHimeの開発者であるオリィ研究所代表・吉藤さんは、ALS患者のための改良に取りかかりました。70人以上の患者から話を聞き、それをもとにデジタル透明文字盤“OriHime eye(オリヒメアイ)”を開発。
眼球の動きをセンサーが検知し、文字を入力。音声にも変換できます。OriHimeの動作も簡単に選ぶことができ、患者の感情を、OriHimeを通して表現することも可能です。使ってみた患者は――
OriHime(患者)「これで飲み会に参加すると人気者になりそう」
吉藤さん「手をあげて『生1つ』と言っていただきたいです」
OriHime(患者)「これはおもしろい」
患者の分身ともいえる、このOriHime。可能性が無限に広がります。
■OriHimeの共同研究者・武藤将胤氏に聞く
――武藤さんは、このOriHimeの共同研究に携わっていらっしゃるそうですね。
はい。主に使い方のデザインという部分で携わっています。OriHimeを使って日常的なコミュニケーションはもちろんのこと、障害を抱えた方も、寝たきりの状態になってしまったとしても、このOriHimeを通じてもう一度、働く挑戦をしていこうということで、オリィ研究所さんと共同研究をさせていただいています。
――働く希望が持てるというのは大きいことですね。
私自身も、日常的にOriHimeを使って遠隔で打ち合わせをしたり、地方の中学校にOriHimeを送って、OriHimeを通じて講演や授業などを行わせていただいています。
――精力的に活動されていますが、武藤さんのような若い患者が少ないと聞きました。
ALSという病気は、比較的50~70代の高齢の方に多くいらっしゃいます。20代で発症するケースというのはまれなんですね。
ただ、僕らのような若い世代だからこそ、テクノロジーへの感度は高いと思うので、皆さんにとって有効なテクノロジーをセレクトして、その使い方のデザインをしていくのが我々の使命だと思っています。
――OriHimeのような機械は今までなかったんですか?
なかったですね。今はOriHimeを分身として皆さんと同じ時間を共有できるので、本当に可能性を広げてくれている相棒ですね。
――これからの展開は考えていますか?
今までは肉体労働をすることは不可能だと言われていましたが、僕自身、6月19日の音楽イベントに120センチサイズの大きいOriHimeを使って、入り口で物販の店員として皆さんとコミュニケーションをとったんですね。そこまでいければ、働く幅がどんどん広がっていくと思うんですね。
――テクノロジーの進化ですごく未来が明るくなりますね。
■武藤将胤氏プロフィル
コミュニケーションクリエイター。26歳の時、体の運動機能が徐々に失われていく難病・ALSを発症。自身の体験を通じ、ALSの認知や支援制度の向上などを目指し、一般社団法人“WITH ALS”を立ち上げて活動している。
【the SOCIAL viewより】