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ワーク・スマートで「人生のCEOに」 2

2018年5月1日 18:19
ワーク・スマートで「人生のCEOに」 2

グーグル日本法人専務執行役員CMO兼アジア太平洋地域マネージングディレクターの岩村水樹氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「子供を産んだ後、仕事と家庭を両立できると思えないんです(グーグル女性社員)」。岩村氏はグーグルで何を変えたのか。


■キャリア半ばで決断した理由


――この発言は、岩村さんが2010年にグーグルをより良くするため、女性社員へ何ができるかを検討するグループを立ち上げた際に、聞き取りの現場で出てきた1人の女性社員の声だったそうですね。そもそも岩村さんは子供を産んですぐにグーグルで働き始めたわけですよね。なかなかそれはできないことだと思うんですが。

そうですね。子供を産んだので、ちょっと変化を起こしてもいいのかなと思ったのはあります。あと、だんだんキャリアも半ばになってきたところで、やっぱり自分の人生のミッションみたいなものに立ち返ろうと思ったんですね。

キャリアの前半っていうのは、いろんなことをがむしゃらにやってみて、やってないことをやってやろうという――新しいことをどんどん身につけるということで、拡散期だったと思うんですね。それがキャリア半ばを過ぎてくると、これから先、自分が本当に人生を全うしたと思えるようなことに時間を使っていきたいと思いました。

そもそも留学したのも、インターネットっていうものが出てきている、そこのまさに真ん中にあるシリコンバレーのスタンフォードだったら行ってみようということもあったので、せっかくなのでこの先は、もともと広告代理店に入っているときから思っていた「情報を人々に届ける」――それがもっと流通をすることで、より良く世界の課題が解決できることにつながったらいいなというようなことを考えていたところ、グーグルがまさにそういうミッションを掲げてやっていたということで、思い切りました。


■面接期間中に妊娠がわかった


――乳児を抱えて就職したわけですよね。それは日本だったら、それだけで「もう結構です」っていう会社も正直少なくないと思うんです。そこは会社の理解があったということでしょうか。

むしろ、私が面接を始めた時は、まだ妊娠もしていなくて、当時はグーグルもものすごい面接の数があって、その間に妊娠をしまして、それで「ちょっと待ってください」と言ったら、待ってくれるというので、出産3か月後に入ったんですね。


――出産3か月で!?

自分で自主産休ということで入ったわけなんですが、そういう意味ではテクノロジーの企業なので、今ほど、フレキシブルに働くためのテクノロジーはまだ当時はなかったですが、それでも環境としては、家からメールが見れたりとか、そういったことは、すごくヘルプになっていて、働きやすいなとは思っていました。

私はがむしゃらにやって、結構面白いし、問題ないだろうと。私が数少ないワーキングマザーとして、「私の背中を見てみんなついてくるだろう」と勝手に思っていたんですね。


■ヒアリングの結果にショックを受けた


それでWomen@Googleという組織を立ち上げるということになったんですが、これは、いまYouTubeのCEOをやっているスーザン・ウォジスキーとか、グーグルの初期に入社した人なんですね。アメリカで妊娠をしている女性のための駐車スペースを特別に作ろうとか、そういうことをやってきた人たちだったりします。あともう1人、今、FacebookのCOOをやっているシェリル・サンドバーグさんとかですね。そこの2人が立ち上げたものを日本で立ち上げることになって。

でも、そこそこやっているし、いったい何を課題やテーマにして、ビジョンとして掲げていくべきかということを知りたいと思って、いろんな女性社員の方にヒアリングをしたところ、全然そんなことはなくて、みんな「とてもじゃないけれども、働き続けられません」と言われてしまいました。

それがすごいショックだったんですね。自分の身の回りは何とかなるかなと思っていたんですが、少し離れると、そういった働けるということが全然信じられていないという状況だったんですね。


■「みんなそれぞれ違っていい」という考え方


――「チームを家族にすることが大事」とおっしゃっていましたが、そのあたりはどういうことなんでしょう。

やっぱり一番大切なことは、どうやってチーム一人ひとりのメンバーが互いの状況もわかって、サポートし合えるというふうに思ってもらえる環境をつくれるかだと思うんです。

それを私は象徴的に「チームを家族に、そして家族をチームに」と言ってますが、それをキーワードに、ぜひグーグルの日本法人も、女性にとって一番働きやすいオフィスであるということを目指そうじゃないかということで、Women@Googleの活動を始めました。

やったことというのは、2つあって、なるべくフレキシブルに働けるようにしましょうと。どうしても時間に縛られているということになると、特に子供が生まれた後って非常に大変ですよね。小さい子供が熱を出したりとか、保育園にちょっと連れていくときにグズグズ言われて、それで遅れちゃいましたとかって、非常に精神的な負担が高いと。

あともう1つは、カルチャー作りですね。いろんなタイプの人たちがいていいんだと。それぞれの働き方は、みんなそれぞれ違っていいと。そういう多様なライフスタイルを持っている人たちが、それぞれお互いを認め合いながら、「大変だよね」と言いながら働き合える環境を作っていくというのが、非常に重要だということで、社内でも啓蒙(けいもう)活動をしたり、あとは仕組みも変えたりというようなことをやってきました。


■積極的に声をかける


――日本ではまだ、プライベートのことを仕事に持ち込むことに抵抗感がある人もいますし、なかなか自分のことを会社で言うっていうことができないっていう人もいますよね。そういう人はいなかったですか。

やっぱり率先してリーダーが話すっていうことが重要ですね。あとグーグルの場合、こんなテクノロジーの会社で「なぜ?」って思われるかもしれませんが、ものすごいミーティングがいっぱいあるんです。朝から晩までミーティングをやっているぐらい、30分刻みぐらいでミーティングがあるんです。

その中に、例えば「One on One」ミーティングというのがあります。これは1対1のミーティングなんですね。私も最初にグーグルに入った時に、いきなり「One on One入れといて」って言われて、当時のマネージャーと何をしたらいいのかなと思ったら、最初のうちは仕事の話をしたりするんですが、そのうち、それ以外のことも話すようになったりしますよね。プライベートな状況も「子供は今これぐらいになって、大変なのよ」…とか。そういう話をしていくと、安心できるようになってくるということはあるので、お互いの状況がわかるようなコミュニケーションをとっていくというのは、すごく大切なことだなと。


――ミーティングの中でも、そうやってお互いに話していくっていうことなんですね。

そうですね。それも、ものすごく積極的に声をかけて聞くようにしています。