米の鉄鋼輸入制限 “支持集め”が狙い?
世界中に波紋を広げているアメリカ・トランプ大統領の鉄鋼輸入制限。その狙いは、鉄鋼労働者の支持を集めるためとされている。実態はどうなのだろうか。
■鉄鋼などに高い関税
アメリカ東部・フィラデルフィアの港は、外国からの鉄鋼が荷揚げされることで知られている。ここには、日本から運ばれてきた鉄鋼が所狭しと保管されていた。
実はアメリカの鉄鋼輸入元で日本は世界第6位。その品質の良さからアメリカでも高い評価を受けているが、今月8日、トランプ大統領は鉄鋼などに高い関税を課す輸入制限の発動を正式に決定した。鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課すという。
トランプ大統領は、カナダ、メキシコ、オーストラリアの3か国は輸入制限の対象から除外すると表明したが、同盟国の日本は現時点では除外されていない。これについて、世耕経済産業相は「極めて遺憾」と述べている。
中国やEU・ヨーロッパ連合側は、「報復措置をとる」と反発を強めており、貿易戦争に発展するとの懸念も強まっている。
■鉄鋼業の復活を目指して
トランプ大統領はなぜ、そこまでして鉄鋼の輸入制限にこだわるのだろうか。
創業42年の大手鉄鋼メーカーの工場を訪ねると、近く、従業員を大量に解雇する予定だという。勤続22年のハウアーさんはこう話してくれた。
「人生の半分をここで働いてきた。だから解雇はとても深刻な問題だ。輸入は我々を苦しめている」
商務省によると、アメリカの鉄鋼業は外国の安い鉄鋼にシェアを奪われ、衰退。1998年と比べ、鉄鋼労働者は35%も減ったという。
そこで、トランプ大統領は外国製の輸入に制限をかけることで、鉄鋼業を復活させ雇用を戻したいと考えている。
■トランプ大統領の発表に見た希望
その狙いは、やはり選挙だ。鉄鋼労働者の支持をつなぎ止め、2018年11月に行われる中間選挙での勝利につなげようと目論(もくろ)んでいる。ハウアーさんはトランプ大統領をこう評価した。
「仕事が戻ってくるかも。トランプ大統領は鉄鋼業を救うと言った。100点以外あげられない」
解雇の恐れがある女性の従業員、アレンさんも不安を語る。
「一からやり直さないといけないのでビクビクしているわ」
シングルマザーのアレンさんは工場で働きながら、女手ひとつで息子を育てました。6年前の写真を見ながら、アレンさんはこう話す。
「この頃はよかった。残業もあったけど、仕事があるという安心感があったわ。もう今は全てが変わってしまった」
ただ、トランプ大統領の鉄鋼の輸入制限には、「期待しない」と語っていた。しかし、取材中、トランプ大統領の発表が始まると、アレンさんは話に聞き入っていた。そして――
「どう反応して良いのかわからないわ。(仕事が戻ってきて)良い結果になるのかもしれないけど、まだわからないわ」
トランプ大統領の言葉に一縷(いちる)の望みを抱いたように見えた。
選挙で勝つことが最優先。トランプ大統領の“アメリカ第一主義”が一層、強まっている。