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100人中1人に刺さるビール売る社長 1

2018年2月23日 12:05
100人中1人に刺さるビール売る社長 1

キーワードを基に様々なジャンルのフロントランナーからビジネスのヒントを聞く「飛躍のアルゴリズム」。今回はヤッホーブルーイング・井手直行社長。ビール離れが叫ばれる中、ヤッホーブルーイングが成長し続ける秘けつを聞いた。


■井手直行氏のプロフィール

1967年、福岡県出身。久留米工業専門学校を卒業後、電気機器メーカー、タウン誌などを経て、1997年にビールメーカーのヤッホーブルーイングへ入社。1997年の創業時に営業担当として入社後、地ビールブームの衰退で赤字が続く中、ネット通販業務を推進して2004年に業績をV字回復させ、現在まで13年連続で増収増益を達成。2008年より社長に就任している。ヤッホーブルーイングは全国200社以上あるクラフトビール業界の中でシェアトップ。


■大手にはできないことをやる

――井手さん、ビール離れが叫ばれる中で、ヤッホーブルーイングが成長し続けるその秘けつは何ですか。

世の中にないものを生み出していくということですかね。

――1つ目のキーワードは「大手にはできないことをやる。目指したのは“知的な変わり者”」。ヤッホーブルーイングのビールは、個性的なネーミングと斬新なパッケージが目をひくんですよね。私も「よなよなエール」を飲んだことがあります。コクがあって、後味がとてもフルーティーで、すごく表情があるビールだなと思いました。食事に合わせてももちろんおいしいビールだと思うのですが、味わうためのビールだなと思います。この特徴的なビールですが、普通のビールとは何が違うのか教えてください。

飲んでいただいたら、明らかに味が違うんですよね。大手ビールメーカーさんのビールもおいしいんですが、“よなよなエール”は、コクもあって香りもあって、目隠しして飲んでも明らかに違う。これは製法がまず全然違うんですね。

大手さんが造っているのは、ラガー酵母という酵母を使って、ラガービールを造っているのですが、ご存じのようにすっきりとした味わい喉ごしで飲むおいしいビールです。

しかし、我々は大手さんが造っていない、少なくとも以前は造っていなかった“エールビール”と呼ばれるエール酵母を使って造るエールビールを専門に造る会社なんです。色々なエールビールがあるのですが、華やかな香り、深い味わいでコクがある。こういうのが大きな特徴です。

――苦いビールがあったり、華やかな香りがあったり、普通は思いつかないような商品が多いようですが、どうやってこれら色々な商品を開発されたのでしょうか。

日本には大手さんのビール、これはラガービールの中のさらに1種類の“ピルスナー”と呼ばれているもので、何十年ものあいだ、ずっとそれがほとんど占めていたんですね。


■世界には様々なビールがある

ただ世界を見ると色々なビールがあります。そのスタイルによって100種類以上あるといわれています。しかし、日本人はそういうビールが世の中にあるというのを全く知らずにいました。

そういう苦いビール、華やかな香りがあるもの、ちょっと甘みが強いビールなど色々ある。これこそ、我々が作りたいビールで、海外に行くとそういうビールを飲んでおいしいなと思うわけなんです。

それを日本のビールファンに届けたいと思って、我々が選ぶ本当に個性的なビールの中の個性的なビールを選んでやっているので、明らかに、大手さんとは違うものが生まれてくるんですね。

――個性的な中の個性的というと、何人かに1人しか刺さらないんじゃないかと思いますけど、そういうのを狙っていくというのは経営的には成り立つのでしょうか。

我々は小さな会社なので、大手ビールメーカーさんがしのぎを削っている中に真っ向勝負をしようと思ってないんですね。例えば100人いたら、そのうちの1人が熱狂的なファンであってくれれば、それでいいと思っているんです。そうすると100人いて1人がずっと買い続けたら、1%売り上げが取れるわけじゃないですか。

売り上げ1%は小さいと思うかもしれないですが、今の我々のクラフトビール業界というのは200社以上あって、それでも1%強ぐらいしかシェアを取れていないんです。そのため、1社で1%ぐらい近い将来取れたらもうそれで十分なんです。100人に1人が熱狂的に好きなビール、そういうのを目指して20年前から今に至って造っています。


■“知的な変わり者”を目指す

――100人に1人刺さるという、その御社のブランドイメージというのが“知的な変わり者”ということですが“知的な変わり者”というのはどういうことでしょうか。

“知的な変わり者”というのは、知的というのは勉強して知性を豊かにするしかないので、ここはもうみんな努力して勉強しようと。

変わり者は、個性を伸ばして伸ばして伸ばすと、ある常識を超えると「お前変わっているな」というふうになると思うんです。これを僕らは個性を伸ばしたがゆえに常識的にそれをはるかに上まわった個性がとんがっている…こういう人を“知的な変わり者”と呼んでいます。我々もそうであろうと思うし、我々の看板ビールの“よなよなエール”もアイデンティティーも“知的な変わり者”。その“よなよなエール”を飲んでくれるファンの方も愛情をもって“知的な変わり者“だと、こんなふうにもうそろえている。

――100人に1人にだけ刺さっていくビールが、今やコンビニの定番商品にもなっているということですが…。

そうなっちゃいましたね。日本中全てのコンビニではないですけどね。結構、扱われるようになりましたね。

――それは想定内なんですか。

それを目指してやっていたので、想定外とはいわないですけど、ただ、本当にそういう状況に今なっているというのは、本当に感慨深いです。

――私もたまにコンビニで仕事帰りにビールを買うのですが、まずデザインが取りやすいんですよ。女性1人でビールを1缶取ってレジに並ぶと、どういうことを思われてるのかなとちょっと考えることってありますよね。やっぱりその点、デザインがいいというのは素晴らしいことで「本当にありがとうございます」と言いたいです。

僕らも同じ感覚です。特に女性の方はビールを買っている姿を人に見られると恥ずかしいというインタビュー結果があがっています。しかし、我々のビールは“よなよなエール”もそうなんですが、おしゃれで名前もちょっとユーモアがあって、ちょっとファッション的な感じで買えるので同じような声をたくさん聞きます。

――それがもうすごく刺さっています。