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「イスラム国」去るも生活悪化 イラクの今

2018年2月8日 19:07

イラク政府は去年12月、過激派組織「イスラム国」との戦闘終了を宣言。戦闘が終わっても厳しい状況の続く、イラクの人々の生活に諏訪中央病院の鎌田實名誉院長が迫る。

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鎌田さんが代表を務めるNPO法人はイラクの病院へ医薬品などの支援をしており、イラク北部のアルビルを中心に活動している。アルビルは、クルド人自治区の中心都市で、「イスラム国」による影響はほとんどなかったものの、今は、クルド自治政府とイラク政府が対立していて不安定な状況が続いている。

この地域では去年9月、クルド自治政府がイラクからの独立の是非を問う、住民投票を行い、独立に賛成する人が9割を超えた。しかしイラク政府は独立を認めず、クルド人自治区にある空港への国際線の乗り入れを停止するなど、経済面での圧力を強めている。

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「イスラム国」との戦闘が終わった今も、イラク国内での対立が続いている。

アルビルに住むハッサンさんは去年まで紳士服の仕立てをしていたが、経営の悪化で職を失い、今は屋台を借りて豆のスープを売り、生計を立てている。

ハッサンさん「(住民投票の後)状況は大きく変わりました。仕事は全然ないです。ギリギリの生活を送っています」

観光の街でもあるアルビル。イラク政府によって国際線の乗り入れが停止されたことなどで、観光客が激減し、経済は急速に悪化している。

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国際線の停止は、医療にも影響を与えている。アルビル市民の健康を支えているナナカリ病院は、鎌田さんが支援している病院の一つ。ペイマン医師は「政治的な問題のせいで、薬などの医療支援が入らなくなりました。患者さんたちも困っています」などと話す。国際線が停止されたために、薬の輸入もできなくなっているというのだ。

また、去年10月には武力衝突も起こるなど、クルド自治政府とイラク政府の関係がさらに悪化して、今まで、イラク政府からわずかながら配給されていた薬も届かなくなったという。

十分な医療が受けられない状況は他の地域でも…。

かつて「イスラム国」の一大拠点だったモスルにある、イブンアシール病院。激しい戦闘に巻き込まれ、病棟は、ほとんど焼けてしまった。去年、診察を再開したものの、薬不足以外にも問題が起きているという。

子供たちは病院に「イスラム国」がいると思っていて怖くて来ることができないという。ワサン医師は、定期的にパーティーを行うなど、病院に抱いている怖いイメージを払拭することが必要だと感じている。

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そんな中、少しでも病気の子供たちの力になりたいと活動している女性がいる。イラク南東部の都市バスラに住む、20歳のスースさんだ。10歳で卵巣がんを発症、がんと闘い続け、現在は完治に近い状態にまで回復した。

―あなたは強いですね。
スースさん「強くならないと」

がんを克服した経験を闘病中の子供たちに伝えたいというスースさん。

いま、バスラで鎌田さんが代表を務めるNPO法人の現地スタッフとして、病院内で絵を教えている。スースさんは入院中、絵を描き続けていた。描かれているのは『病気と闘う友達』で、マスクはしているものの、楽しそうに遊ぶ姿も見られる。これらの絵は、病気の子供たちの支援につながる“チョコ募金”の缶にも描かれている。

スースさん「難民の子供たちやがんと闘う子供たちは、くじけずに生き抜いてほしいと思う」

スースさんは闘病中、髪の毛が抜けた姿を見られたくない、と引きこもっていた時期もあった。ただ、その経験を乗り越えたスースさんの言葉は今の子供たちに響くのではないか。

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現在、イラクの状況はけっして良くない。ただ、こうした若い世代が育っていることに少しほっとした。スースさんやイラクの子供たちが描いた絵の展示会は9日から、日比谷で開かれる。

■イラクの子どもたちの絵と写真展
ギャラリー日比谷
9日~14日/午前11時~午後7時(最終日~午後4時)