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働く世代の関心↑“お試し移住”で定着へ

2018年1月17日 18:57
働く世代の関心↑“お試し移住”で定着へ

働く世代が国内で新たな場所に移住する動きが広がっている。移住先は、雪の多い街から都市部とさまざま。本当に自分たちに合うのか、試しに移住してみたいというニーズもあり、自治体は様々な取り組みを始めている。

◆“お試し移住”にシェアハウス

新潟県十日町市。一時消滅寸前だった竹所地区では、今、カラフルな古民家が目立つ。小屋の中で牛の世話をするのは、去年4月に竹所地区に移り住んだ蜂谷誠基さん(31)。農業を学ぼうと新潟市から移住した。

昼すぎ、山道を運転して帰った先は鮮やかな緑色の古民家。実はここ、移住希望者がお試しで暮らせるよう、市がつくったシェアハウスなのだ。

蜂谷誠基さん「シェアハウスの方が、金銭的に抑えられる」

竹所地区は、1990年代に移住したドイツ人デザイナーが古民家をカラフルによみがえらせたことから注目され、それまでの人口を超える人が移住した。しかし、十日町市全体では今も毎年約700人の人口が減っていて、市ではさらに移住者を増やしたいとシェアハウスを造った。

十日町市産業観光部・高橋優樹さん「若い方を中心に、十日町市に『お試しで来てみようかな』と入ってもらったりしているので、(市に)興味を持ってもらうきっかけになっている」

これまではすることのなかった雪下ろしをすることもある蜂谷さん。雪への対策は、ここでは欠かせない。

夕方に帰宅した別のルームメート、農業兼事務職の大出恭子さん(46)は…

大出恭子さん「自分が留守でも雪のことを気にしてやってくれる人がいるし、そういうのは助け合っている」

冬の厳しい環境でも助け合いながら低価格で暮らせるため、移住希望者をひきつけている。

◆市営の「移住お試し住宅」で家族そろって新天地へ

一方、家族で新しい土地に移住する人も。東京から車で約1時間半の栃木県栃木市。横谷直巳さん(47)と妻の由紀さん(42)、莉那ちゃん(4)の横谷さん一家は、去年10月に東京から移住した。休日には家族で山の見える自宅近くを散歩する。

横谷さんが移り住む前に利用したのが、市の「移住お試し住宅」。一泊2000円、最大1か月3万円で、栃木市での生活を体験できる。

横谷直巳さん「生活に密着したエリアとか散策したりとか、スーパーは近いですし、全然、思ったより不便じゃなかった」

その後、横谷さんは栃木市に家を新築。東京でしていた板前の仕事を辞めて、自宅近くの店で同じ仕事を始めた。

横谷直巳さん「田舎暮らしがしたいなと思っていたので、非常に今は東京よりもこちらの方が住みやすい」

◆移住で起業にチャレンジも!

東北には、移住するだけでなく、起業にもチャレンジできる町が。岩手県遠野市は、ビールの原料となるホップの栽培が盛んで、作付面積日本一を誇る。

2016年以降、15人の起業家が移住。去年、神奈川県から移住した太田睦さん(59)は、遠野には数少ないビールの醸造所を設立した。

太田睦さん「ビールをつくる人を募集すると、経験は問わないという話があって面白そうなので」

この日は、新しくつくるビールにどの品種のホップを使うか、農家と打ち合わせをしていた。

遠野アサヒ農園・吉田敦史代表取締役「生産者としては販路が広がって、それがこれからの生産者の未来につながっていく」

農家の減少が深刻な遠野市。なぜ起業家が集まっているのだろうか。

東京から移住したデザイナー(37)「こちらでの仕事だけで生計を立てていくっていうことに対して保障が出ている」

遠野では、地域に根ざして起業する移住者に、国の制度を利用して3年間、月額約16万円の生活費が支払われる。

この取り組みは、起業家を支援する団体「ネクスト コモンズ ラボ遠野」が遠野市と協力して進めている。ノウハウを知る担当者が、初めて起業する移住者へのアドバイスやメンタルサポートなどを行う。

ネクスト コモンズ ラボ・林篤志代表「その人が持っているスキル・力を、その土地に還元していく。そこで新しいものを生み出していく」

元エンジニアやアパレル店長など多彩な起業家が集まり、ビール醸造など9つのプロジェクトに取り組んでいるという。

◆ミスマッチ減らす取り組み

移住先に定着できるよう、移住する人と受け入れる地域とのミスマッチを減らす取り組みも広がっている。

去年開かれた「移住ドラフト会議」は、プロ野球のドラフト会議のように、複数の地域が集まり、移住希望者のプレゼンテーションなどを聞いた上で自分たちの地域に合う人を指名する。指名が重なれば抽選に。交渉権を得ると地域と移住希望者は互いに行き来するなどして関係を深める。指名された人は必ずしも移住する必要はなく、まちづくりへのアドバイスなどで地域に貢献する人もいるそうだ。

また、鳥取県倉吉市が行っているのは「オーダーメードツアー」。子育て環境が気になる人は保育園など子育て施設の見学、地域の人と交流したい人は地域行事への参加など、移住希望者のニーズに合わせ、可能な限り対応している。

◆働く世代の移住への関心高まる

東京・大阪・愛知に住み、正社員として働いている30代~50代の約1000人に「地方移住に関心があるか」聞いたところ、6.2%の人が「すでに地方への移住を具体的に検討している」と答えた。100人中6人以上が具体的に移住を検討していることになる。

さらに、現在勤めている企業から、地方への転勤や転職先の紹介などなんらかの支援を得られる場合、「移住したい、移住を検討したい」という人が43.9%までふくれあがっている。やはり、仕事があるかどうかが、移住の重要な決め手になる。

実際、移住者の数が増えている島根県では、決め手の1つは手厚い就職支援だとみている。

◆決め手は就職支援

たとえば、島根では県・市・移住支援の財団が一体となって無料の職業紹介サイトを展開している。移住希望者がサイトに登録し希望の職種やエリアなど条件を入れておけば、関心を持った企業からメールが来る、という仕組みもあるそうだ。

さらに会社見学や面接などで島根に行く際には、交通費の半分を出してくれる。自治体が熱心に仕事探しをサポートしてくれるのは、心強い。

働く世代の移住、地方で働く世代の人口が増えれば税収や消費も増え、地域が活性化する。これは、日本全体にもプラスとなりそうだ。ただ、移住した後に「想像と違った」ということもあり得るので、移住前に地域の特性などをよく知る準備も必要だ。