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形骸化進む1国2制度…香港の展望は・下

2018年1月3日 20:02

香港は、去年7月に中国への返還20年を迎えた。記念式典には習近平国家主席も出席し、中国の空母「遼寧」が初めて香港に寄港するなど、お祝いムードに包まれた。しかし、対照的に、香港市内では中国の政治的な関与に反対する大規模デモが行われ、主催者側の発表で約6万人が参加した。

中国は香港に対し、イギリス領時代の経済的・社会的自由を50年間、維持するとした「1国2制度」を認めている。しかし、返還から20年がたった今、中国の関与によって香港の高度な自治が侵害されているという危機感や無力感が、市民の間で広まっている。<上より続く>

◆中国の戦略

また、去年末には、香港やマカオと中国の珠海市を結ぶ巨大な橋「港珠澳大橋」が開通する予定で、今年から人や物の移動が本格化する。

中国の戦略は、3つの都市を橋でつないで経済圏をつくり、東京湾やアメリカのニューヨーク港などに対抗する世界有数の港湾エリアとして開発するというものだ。この場所を、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の拠点とすることで、発展が見込まれている。

香港行政のトップ・林鄭月娥行政長官は、「香港は巨大な祖国に依存し、これから無限の発展のチャンスがある」と発言していて、経済都市・香港の発展は中国との協調関係なしには語れないとの考えを示している。

中国とのビジネスで利益を得ている香港の人々にとっては、政治的な民主化を推し進め中国政府と対立するような事態は現実的とは見なされず、中国との結びつきをより強めようとするだろう。

こうした中で、今年から、香港の中学校では中国の歴史を必修科目にする方針も明らかにされた。習主席は香港の若者について、「中国の歴史、民族、文化への教育などを強化する必要がある」と述べていて、より中国国民としての意識を持たせる狙いがあるとみられる。

◆「基本法23条」問題

香港と中国との一体化が進んでいる中で、大きな混乱を呼ぶのではないかと注目されているのが、「基本法23条の問題」だ。香港の憲法にあたる「基本法」の23条は、香港政府に対し「国を分裂させる行為や暴動を扇動する行為などを禁止する法律」の成立を求めた内容となっている。ただ、これまでに具体的な法律は整備されてはいない。

香港政府が2003年に立法会に法案を提出したが、社会統制の色彩が強く、言論の自由を制限したりデモを呼びかけたりした人間を逮捕する権限を政府に与えてしまう恐れがあるとして、約50万人が参加する大規模デモが発生。中国寄りの親中派議員までが、時期が早いなどとして反対票を投じ、香港政府が法案成立を断念した経緯がある。

しかし最近は、中国政府から「香港独立などの活動が表立って行われており、香港政府は早く、基本法23条の法整備を進めるべき」という意見が出始めた。昨年12月、習主席と面会した林鄭香港行政長官は基本法23条について「タイミングを見て適切な環境下で判断したい。成立に向け、有利な状況をつくる責任がある」と答えた。

◆反中国デモの参加は減少も…混乱再び?

こうした状況を前に、香港での反中国デモへの参加者は年々減ってきている。しかし、実際に現地で取材をしていると、中にはデモに参加しないながらも、中国による自治への明らかな関与に違和感を抱く人も多い。

中国がもたらす利益や発展に期待し、サイレントマジョリティーに徹している市民が、保障された「1国2制度」の形骸化や、変質をある程度許容するとしても、特に基本法23条の問題のように、これまで香港社会が得てきた自由の根幹に関わる部分が大きく変えられてしまうことになれば、批判の声はまた一気に高まることになる。

「雨傘運動」当時に香港社会が一時、機能停止に陥ったように、再び大きく混乱する可能性も出てきている。<完>