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形骸化進む1国2制度…香港の展望は・上

2018年1月3日 19:51

香港は、去年7月に中国への返還20年を迎えた。記念式典には習近平国家主席も出席し、中国の空母「遼寧」が初めて香港に寄港するなど、お祝いムードに包まれた。しかし、対照的に、香港市内では中国の政治的な関与に反対する大規模デモが行われ、主催者側の発表で約6万人が参加した。

中国は香港に対し、イギリス領時代の経済的・社会的自由を50年間、維持するとした「1国2制度」を認めている。しかし、返還から20年がたった今、中国の関与によって香港の高度な自治が侵害されているという危機感や無力感が、市民の間で広まっている。<上>

◆共産党大会の主席演説

今の中国の、香港に対する姿勢が明確にあらわれたのが、去年行われた第19回中国共産党大会での習主席の演説だ。政権2期目の幹部人事を有利に進め、権力基盤を固めた習主席は、まさに晴れの舞台で、香港について「中央政府が香港を全面的に管理する権力を掌握している」と強調。香港は中国の一部であるという認識を改めて示した。

「保障される自由は中国が許容した範囲内でしか認められない」と受け取れるもので、香港市民が抱く高度な自治へのイメージと大きく異なる。

◆進む中国の香港管理

さらに党大会以降は、香港への管理を表立って進めるような動きが出てきた。

例えば、中国では公共の場で国歌の替え歌を歌うなどの国歌を侮辱する行為を禁じた「国歌法」が成立していたが、中国の全国人民代表大会(=全人代)常務委員会は去年11月、この法律を香港にも適用することを決定した。

特に2015年以降、香港で行われたサッカーワールドカップ予選などの国際試合の際に、中国の国歌に対し一部の観客がブーイングを行うなど中国に批判的な態度を示していたが、中国政府は、こうした市民の行動を「『1国2制度』の限界に挑戦する行為」などと問題視していた。

これに対し、中国に批判的な香港の民主派など政治団体は、「異なる声を封じ込め、言論の自由を奪う目的がある」と警告したが、香港政府は中国の国歌法を適用する法律を「早期に成させる」などと表明している。

◆中国批判で起訴も

また、香港で民主政治を求めて中国を批判する人々が裁かれる事態も続いている。

香港では去年3月までに、議会にあたる立法会議員選挙や行政長官選挙など重要な選挙が続いたが、これらの選挙が終わるとすぐ、大学教授ら9人が起訴された。いずれも2014年に香港で普通選挙を求めた大規模デモ「雨傘運動」で指導的な役割を果たした人々で、当時、許可を得ていない集会への参加を呼びかけたなどの罪に問われている。

そのうちの1人、香港大学の戴耀廷副教授は起訴のタイミングについて、「香港政府には中国に批判的な民主派への同情票が集まることを避ける狙いがあった」と批判し、デモへの参加を呼びかけたこと自体が罪に問われたことに「言論の自由を保障する香港にとっては大きな損害だ」と警鐘を鳴らしている。

◆香港メディアの「自主規制」

香港の内側から噴出する声や市民の懸念を伝えるのは香港メディアの役割だ。しかし近年、中国資本による香港メディアの買収が進んでいて、中国に批判的な記事を書かなかったり、小さく扱ったりするなど「自主規制」が進んでいるとの指摘もされている。

ただ、その香港メディアでも、「『1国2制度』に基づいた自由な経済都市としての香港の魅力が失われつつある」として、一昨年には高学歴・高収入の人々を中心に約1万8900人の香港人が海外へ移住したと伝えた。年々、悪化する香港社会の閉塞(へいそく)感を反映したものともみられている。

◆形骸化進む「1国2制度」、背景は

結果的に「1国2制度」が事実上、形骸化していく背景について、香港中文大学の馬嶽教授は、10年以上前から始まった香港経済の中国への依存を挙げる。

中国返還時の20年前、香港経済は中国全体のGDP(=国内総生産)の約2割を占め、中国が香港経済に依存していたが、一昨年には、その割合は2%台までに下がり、関係は逆転した。

アメリカのメディア・ブルームバーグは、今年、香港のGDP(=国内総生産)は中国の深セン(「土」へんに「川」)市に抜かれるとする専門家の予測を報じている。

近年、香港市内では、中国人観光客が貴金属を買い、高級マンションを購入する状況が続いている。また、20年前と比較すると、香港を訪れる中国人観光客の数は約18倍に増えていて、香港の観光業を中国人観光客が支えている。中国経済の急速な発展の一方で、香港経済は相対的に地位が低下し、中国への依存を強めている。<下に続く>