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スー・チー氏正念場、ロヒンギャ帰還は 下

2018年1月3日 18:52

去年、「最大の人道上の危機」として国際社会から大きく注目された、ミャンマーの少数派、イスラム教徒の「ロヒンギャ」の問題。ミャンマー西部のラカイン州で治安部隊による迫害を受け、その後、隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の数は、去年末までに65万人を超えた。

国際社会から高まる非難の声を受け、ミャンマーの実質的なトップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問は“ロヒンギャ難民の帰還”を事実上の国際的な公約としたが、今年、ロヒンギャが置かれている絶望的な状況を少しでも好転させる展開は、起こり得るのだろうか。<上から続く>

◆問題解決に向けた動き

国際社会と国内世論の板挟み状態になっているスー・チー氏だが、問題解決に向けた動きも見せている。去年11月、首都ネピドーでミャンマー、バングラデシュ両政府による協議を行われ、両国はロヒンギャ難民のバングラデシュからミャンマーへの帰還に関する合意文書に調印し、ロヒンギャの身元確認と帰還作業を進めることになった。

具体的な対策を求める国際社会の批判をかわすためにも、スー・チー氏に結果が求められていた中での動きだが、ミャンマー政府は声明で、あくまで「解決の主体は当事国にある」と強調し、批判を続ける国際社会へのけん制も忘れなかった。

帰還作業は今年前半にも、始まる見通しだが、ほとんどの難民が着の身着のまま逃れ、身分証明証を持っていないことが想定される中で、どれだけ進めることができるのか、懐疑的な見方もある。

◆当事者の反応は

具体的な確認作業の進め方について、NNNはロヒンギャ難民帰還対応のミャンマー側の責任者に話を聞いた。この責任者は、帰還希望者がミャンマーから来たという証拠がない場合でも、「どこに住んでいたか聞き取りを行い、ミャンマー側が持っている顔写真などと見比べるなどして本人の身元を確認することは可能だ」と話し、確認作業には柔軟性を持たせると強調した。

また、作業開始の時期についても聞いた。帰還希望者の確認を行うための受け入れ施設は今月に完成する予定で、「今月20日以降であればいつでも受け入れることができる」と話し、ミャンマー側の準備は早期に整うとしている。

ただ、「確認作業はバングラデシュ側から示される『帰還希望者のリスト』に基づいて行われるため、そのリストの到着を待って開始することになる」としていて、具体的な確認作業の開始時期は、早くても来月以降になるとみられている。

国際社会の厳しい目が注がれる中、あくまでルールに基づいて帰還を認めるかを決定するとアピールした形だが、難民の中には武装集団も紛れ込んでいるのではとの懸念も持たれていて、その判別は非常に難しいとみられる。

ミャンマー側としては、実際には慎重かつ厳格にその確認にあたるとみられ、スピード感を持って確認作業が進められるかどうかは不透明と言わざるを得ない。

そして、もう一方の当事者であるバングラデシュの政府高官はNNNの取材に対し、「帰還の合意を履行させるには国際社会がミャンマーに対して強いプレッシャーをかけなければならない」と、経済制裁も含めた圧力がなければ帰還の合意は不履行になる可能性もあるとの厳しい見方を示している。

そもそも今回の当事者であるロヒンギャの人たちは、この帰還に向けた動きをどうとらえているのか。話を聞くと、「帰還に向けた動きは歓迎するが、ミャンマーへ戻った後のロヒンギャの安全は保証されていない。国籍を与え、さまざまな制限を取り払ってほしい。ただ、そもそも焼き払われ住む家もない。こんな状況では戻ろうと思わない」と、帰還の実現に対して不安の声が聞かれた。

◆今後の見通しと国際社会の対応は

帰還を希望する人がどのくらいの数になるのかは読み切れないが、もし仮に半分が希望したとしても、その数は30万人以上となる。希望者全員の帰還は数年単位の取り組みになる可能性もある。

先月にはアメリカが、去年8月に行われた掃討作戦で、配下の部隊がロヒンギャに対し殺人や性的暴行を行ったとして、ミャンマー軍の司令官を制裁の対象に指定した。ロヒンギャ問題での個人に対する制裁が科されるは初めてのことだ。

さらに国連総会でも、ミャンマーに軍事行動停止を求める決議が賛成多数で採択された。一方でミャンマー側は、人権問題を担当する国連特別報告者がロヒンギャへの人権侵害を調査するためにミャンマーへ入国しようとしていた際に入国を拒否し、対決姿勢ものぞかせている。

日を追って厳しくなる国際社会からのミャンマーとスー・チー氏への批判。ただ、スー・チー氏への国際社会の支持が失われ力が弱まった時、台頭してくるのはかつての民主化運動の敵であったミャンマー軍であることも、国際社会は認識しておかなければならない。

ロヒンギャの問題をきっかけに国内が混乱することは絶対に避けたいスー・チー氏。問題の解決に向けて指導力を発揮することができるのか、今年のスー・チー氏は、これまでにない難しいかじ取りを迫られることになる。<完>