×

スー・チー氏正念場、ロヒンギャ帰還は 上

2018年1月3日 18:45

去年、「最大の人道上の危機」として国際社会から大きく注目された、ミャンマーの少数派、イスラム教徒の「ロヒンギャ」の問題。ミャンマー西部のラカイン州で治安部隊による迫害を受け、その後、隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の数は、去年末までに65万人を超えた。

国際社会から高まる非難の声を受け、ミャンマーの実質的なトップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問は“ロヒンギャ難民の帰還”を事実上の国際的な公約としたが、今年、ロヒンギャが置かれている絶望的な状況を少しでも好転させる展開は、起こり得るのだろうか。<上>

◆「ロヒンギャ」とは

「ロヒンギャ」とは、バングラデシュとの国境に近いミャンマー西部のラカイン州に住む、少数派のイスラム教徒などのこと。仏教徒が人口の約9割を占めるミャンマーで、ロヒンギャは「不法移民」として扱われ、国籍すら与えられていないケースがほとんどだ。

以前からラカイン州では、仏教徒とイスラム教徒との間では度々、衝突が相次ぎ、迫害されたロヒンギャはその度にバングラデシュに逃れてきた。

そして去年8月。ロヒンギャの武装組織がラカイン州で警察署などを襲撃したことをきっかけに、ミャンマーの治安部隊との間で戦闘が激化する。治安部隊による掃討作戦の名の下に、ロヒンギャの殺害や住居への放火、性的暴行など残虐な行為が行われたとされ、多くのロヒンギャが暴力から逃れようとしてバングラデシュとの国境を越えた。

ミャンマー軍による暴力行為に対して、欧米はもとよりイスラム諸国からも非難の声が上がった。国連は、ゼイド人権高等弁務官が去年9月の人権理事会の会合で「民族浄化」という言葉を使うなど、ミャンマー治安部隊などによるロヒンギャへの暴力を強く非難し続けた。

◆問題の解決を期待されたスー・チー氏

問題はアジアの一地域にとどまらず、一気に世界の関心事となった。この問題の解決に世界が期待したのが、ミャンマーの実質的なトップ、アウン・サン・スー・チー氏だ。自身も約15年にわたって軟禁されながらも民主化を訴え続け、1991年にはノーベル平和賞を受賞したスー・チー氏、その手腕が多いに注目された。

しかし、スー・チー氏は沈黙を貫き、事態打開に向けた対策を示さないままだったため、国際社会からの風当たりは強まった。「ノーベル賞を取り消すべき」との声も広がる中、スー・チー氏はようやく去年9月半ばになって初めて、この問題について演説を行い、「全ての人権侵害と不法な暴力を非難する」と平和的な解決を目指す考えを示した。

その上で、「ミャンマーは複雑な状況にある中で、あまりに短期間での問題解決を求められている」と、このロヒンギャ問題への対応が一筋縄ではいかないこともにじませ、国際社会に対して理解を求めた。

◆対応苦慮の背景

スー・チー氏が対応に苦慮する背景にあるものとは何か。

1つは、国内世論だ。ミャンマーの国民はその9割が仏教徒で、大部分がイスラム教徒であるロヒンギャを不法移民と見なして、強い拒否感を抱いている。ロヒンギャに対して柔軟な姿勢を示すことは、スー・チー氏自身を支える国民の支持を失うことにもつながりかねないのだ。

さらにもう1点。ミャンマーには100を超える数の少数民族が存在しているが、その中には政府と和平を結んでいない民族も複数、残っている。

実質的なトップに就任したスー・チー氏は、少数民族の武装勢力との和平を最優先課題に掲げていて、これを実現するためには軍の協力が欠かせない。そのため、軍のロヒンギャ武装勢力に対する掃討作戦を、批判しづらいという立場にあるのだ。<下に続く>