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慰安婦合意 文在寅政権の対応は?

2018年1月2日 14:04

慰安婦問題をめぐり、「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した、日本と韓国両政府の合意から2年。2017年12月27日、韓国外務省に設置された有識者らによる作業部会が合意の交渉過程や内容を検証した報告書を公表した。

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■日韓合意の検証

「合意の交渉過程で被害者を中心に考えるアプローチが十分に取られていなかった」記者会見で作業部会の委員長が述べたように、報告書は元慰安婦の意見を十分聞かず、意を結んだ点を問題視した上で当時の朴槿恵政権を厳しく批判。日本との交渉過程ではハイレベルで秘密裏に交渉が進められたことや、日本側の要望を事実上受け入れ、韓国政府が元慰安婦の支援団体を説得するよう努力することなど非公開の部分があったことを明らかにした。

報告書は日本政府の対応について直接的な批判を避けたたものの、「元慰安婦らが受け入れない限り、政府間で『最終的かつ不可逆的な解決』を宣言しても、問題は繰り返されるほかない」とも指摘している。

検証結果の公表直後、韓国挺身隊問題対策協議会を始めとする元慰安婦の支援団体は「被害者を無視した合意を今すぐ無効化しなければならない」と気勢を上げた。公表の翌日、文在寅大統領は「合意には重大な欠陥があったことが確認された」と指摘。「日韓両政府の公式の約束ではあるが、この合意では慰安婦問題は解決できない」との立場を表明した。その上で、政府に対し、早期に後続措置を検討するよう指示した。これについて、一部韓国メディアは、文在寅大統領が就任前に主張していた日本側との再交渉を示唆したとの見方を示している。

■“板挟み”の文在寅政権

文政権は、日本政府に対し再交渉を求めてくるのだろうか?慰安婦問題などの歴史問題と、安全保障や経済などでの協力を切り離す「ツートラック外交」を掲げる文政権だが、日本側に合意の再交渉を求めるとなれば、改善の兆しも見られた日韓関係が悪化するのは避けられない。検証結果の公表後、河野外相は「合意を変更しようとするのであれば、日韓関係がマネージ不能となる」と述べ、強い言葉でけん制している。

文大統領は2018年2月に開幕する平昌オリンピックの成功を最優先課題として掲げていて、安倍首相の訪韓を要請しているが、再交渉を要求となれば、訪韓は遠のくことになるだろう。

検証結果を公表した際、韓国の康京和外相が今後の対応について「日韓関係への影響も考慮する」として日本側に配慮を示したのにはこうした背景もあるからだ。

また、日韓関係の悪化は、北朝鮮の核・ミサイル問題に対応する日米韓3か国の連携に水を差すことにもつながりかねない。核・ミサイル問題が深刻化する中、アメリカとしても日韓関係の冷え込みは避けたいと考えているだろう。

さらに、一部の韓国メディアは、「たとえ不十分な合意だとしても、政府間の約束を一方的に変えることは難しい」と指摘。日韓合意の一方的な見直しを迫れば、韓国の国際的な信用に悪影響があるとの懸念を示した。

その一方で、韓国で9年ぶりに誕生した「革新系」の文在寅政権は「積弊清算」(過去に積み重なった弊害を精算する)とのスローガンを掲げ、保守政権時代の不正の摘発に力を注いでいる。韓国の世論調査によれば、日韓合意については7割が再交渉を求めていて、政策の徹底的な見直しを進める文政権にとって「朴前政権の失政」を象徴する政策とも言える。

韓国のマジョリティーは歴史問題をめぐっては日本に強い姿勢で臨むよう求めていて、その声が小さくなる気配はない。日韓関係と国内世論との間で文在寅政権はまさに“板挟み”となっているのだ。

■今後の対応

文政権は2018年1月初旬に行われる新年の文大統領の記者会見までにその立場を発表する見通しだ。まずは、合意の検証結果をもとに元慰安婦や関係者の意見を聞いた上で、問題視された部分について、「何らかの追加的な措置が必要」との立場を示すとみられる。そして、日本に強硬な対応を求める国内世論に対しては国と国との合意であるだけに、見直しには日本側の理解も必要だと説得しながら反応を見極めることになるだろう。

韓国の外交当局には日本側が自発的に追加措置をとるよう期待する声もあるが、日本側がこれに応じるとは考えづらい。それでも、文政権としてはまずは大局的な判断を目指すだろう。しかし、朴前大統領を退陣に追い込んだ国民の怒りが誕生させた政権であるだけに、日本に弱腰だとの批判的な世論がおさまらなければそれに押される形で合意の見直しに傾く可能性も否定できない。日本としては韓国の世論の動向を冷静に見極める必要がある。