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2018年の世界 ブレマー氏語るリスクは

2017年12月26日 22:58

2017年も残りわずか。26日は国際部の渡邊翔記者とともに、一足先に来年(=2018年)の世界の展望を見る。

◆来年、世界が抱える「リスク」について考える

まずは、来年の世界の主な予定を見ると、2月に韓国で平昌オリンピック、3月にはロシア大統領選がある。また同じロシアで6月にはサッカーW杯も開催される。11月には、アメリカ議会の中間選挙が控えている。

とはいえ、スケジュールにない大きなニュースもたくさん起きるだろう。世界の行く先を事前に予測するのはなかなか難しい。ただ、実は毎年、その難しい予測に取り組んでいる人がいる。

それが、政治学者のイアン・ブレマー氏。アメリカの影響力が低下し国際秩序の中にリーダーがいなくなる状態を「Gゼロ」と名付けたことで知られる人物で、各地の紛争や問題が世界全体にとってどうリスクとなり得るのかを分析している。

毎年1月に発表する「その年のリスクトップ10」では、過去にイギリスのEU離脱などを予測していた。今年も、ドイツ・メルケル政権の弱体化や、北朝鮮をめぐる緊張の高まりなどの予想を的中させた。

◆来年の世界のリスクは何か

10月末にブレマー氏が来日した際、直接、聞いてみた。

イアン・ブレマー氏「世界の地政学的環境は、より危険度を増すでしょう。『アメリカ第一主義』で、世界がアメリカのコミットに不安を抱く中、中国は習主席が党大会でリーダーシップを高め、特に経済面でより多くのチャンスを得るようになるでしょう」

ブレマー氏が来年注目するリスクのひとつが、「中国の台頭」。実は今年、ブレマー氏がポイントに挙げた習近平国家主席の発言がある。それが、10月の中国共産党大会でのスピーチ。

習近平主席「建国100年(2049年)までに社会主義の現代化強国を築く。中華民族はさらに活力を増し、世界の諸民族の中でそびえ立つだろう」

このスピーチをブレマー氏は、「公的な場で、初めて中国が、『スーパーパワー(覇権)』になる準備をしていると公言した」瞬間だったと読み解いた。そして、今後、中国が国際社会でさらに「アメリカやヨーロッパ、日本などがつくり上げた秩序に対抗してくるようになる」と予測している。

◆中国台頭のリスクとは

今回、具体例には言及しなかったが、中国台頭のリスクの一例として、巨大経済圏「一帯一路」構想を考えてみたい。

「一帯一路」は、中国とヨーロッパを陸と海で結んで経済圏をつくるという構想。周辺国のインフラ整備に中国マネーを投資して、影響力を強めようという狙い。

「一帯一路」経済圏で中国に有利な多国間貿易システムが構築されていけば、参加国は当然、「中国批判」をしにくくなる。習近平体制も2期目の陣容が整った。影響力がさらに拡大すれば、将来的に中国のストッパーとなる国はどんどん少なくなる可能性があるというわけだ。

ただ、ブレマー氏に話を聞いた10月以降、中国は周辺国などとの関係改善に乗り出していて、「強気の外交」はしばらく影をひそめるという見方もある。

◆アメリカは中国のストッパーになれるか

アメリカが中国を警戒しているのは間違いない。先週発表した「国家安全保障戦略」では、26回も「中国」を名指しして、「政治・経済・軍事面でアメリカと競争」する競合国として位置づけた。

また、トランプ大統領に近いバノン前首席戦略官も今月のNNNのインタビューで、北朝鮮問題を念頭に中国への圧力路線の必要性を強調していた。

前首席戦略官 スティーブン・バノン氏「中国からの莫大な支援がなければ、北朝鮮は軍事的・経済的に持続できない。中国には引き続き圧力をかけ続けなければいけない」

ところが、ブレマー氏は、トランプ大統領が中国のストッパーになれるかどうかにはかなり懐疑的で、「アメリカはこの数十年で『一番力のないリーダー』を抱え、中国は逆に『一番力のあるリーダー』を持った」と発言している。

◆“トランプ大統領”でアメリカの影響力は弱まっている?

はい。というのも、トランプ政権自体が、内にも外にも数多くの「リスク」を抱えてしまっているからだ。

例えば、「アメリカ第一主義」を貫くことで「パリ協定」など国際的秩序から撤退するということが見られる。グローバルな課題への対応をリードしてきたアメリカがいなくなることで、残された国々の足並みがそろわなくなる。これはトランプ政権が続く限りあり続ける「リスク」だ。

さらに外交面では、中東・エルサレムをイスラエルの首都と認めたことで国際社会の反発にさらされている。さらに内政でも、政権とロシアをめぐる一連の疑惑、来年の中間選挙でも与党共和党に厳しい結果が予想されていて、問題は山積みだ。

◆アメリカと中国のパワーバランスの変化で、日本に影響は?

ブレマー氏は、安倍首相がトランプ大統領との個人的信頼関係を重視していることを理由に、「中国の影響力が増大しても日本はその利益を受けられない」と苦言を呈していた。

ただ、来年は日中平和友好条約締結40周年ということで、すでに関係改善を目指す兆候も見られる。日本の外交が米中とどうバランスを取るかも注目したい。

ブレマー氏が予測する「2018年の世界のリスク」は、1月2日に発表予定。