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「リスクとるのが仕事」革新機構・勝又氏3

2017年11月21日 20:53
「リスクとるのが仕事」革新機構・勝又氏3

 産業革新機構の社長・勝又幹英氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。3つ目のキーワードは「シャープ争奪戦の舞台裏 テリー・ゴウ氏に負けたワケ」。鴻海がシャープを傘下に収めた“決定打”になったのは何だったのか。


■テリー・ゴウ氏は一人称で語った


――経営不振で2016年に自力再生を断念したシャープだったんですけれども、産業革新機構が出資支援するとずっと思われていたんですけれども、突如風向きが変わりました。そして、キーワードに出ている「テリー・ゴウ氏」、台湾の鴻海精密工業のトップが大胆なプレゼンをしまして、結局、シャープは、その傘下に入ることとなりました。この舞台裏がどうだったのか、ぜひ、直接対峙した勝又社長にお伺いしたいと思います。テリー・ゴウ氏の勝因は何だったんですか。

 そうですね。テリー・ゴウさんは、やっぱり一代であれだけの企業体を築いた方ですから、私はその当日の提案に直接は触れてないんですけれども、参加した方に聞けば、やっぱりテリー・ゴウさんは一人称で「俺が再生する」「俺が上手くする」「俺が―」という一人称で語られたところが、ものすごい説得力、迫力あった、という話は聞いたことがあります。

 まあ、一方で私たちは、ある意味で「産業革新機構」という看板を背負っていますので、提案については真正面から、組織として掛け値なく、提案いたしましたので、そのへんの芸風の違いはあったのかなという感じはします。


■東芝の場合はどうだったのか


――私たちも、ああいう大きなパフォーマンスで、日本が海外のいろんなタイプの人と戦っていかなきゃいけないんだなっていうのを目の当たりにしました。そして、今年は東芝ということで…半導体事業出資によって、これも海外プレイヤーとの激しい駆け引きを繰り広げましたよね。

 そうでしたね。我々も半年近く、非常に真摯にご対応いただいて、我々も真摯な提案をできました。さきほどの説明にありましたように、今、世界の半導体産業というのが非常にそのグローバルベースの再編の中におります。東芝の半導体もその例外ではございません。

 東芝の半導体が、半導体会社が持っている素晴らしい技術、一流の技術陣、設備…これはもう、論を待たない訳ですが、一方で、日本の東芝以外にも、たくさんのグローバルな半導体の会社が、今後世界の競争で勝っていく上でのキーワードがあります。

 その1つが、まず独立して、しかも、専業でやっていく。そうすると、大きな企業体の一部門で半導体をやっていくのがいいのか、大きな枠組みから離れて自分で独立してやっていくのかっていう中では、東芝の半導体が、1つのグローバルなベストプラクティス、皆さんがやってらっしゃるような「独立」「専業」にもし方向転換できるとすれば、そこに我々が何らかの関与する余地もあるのかなと、というふうにも考えた次第です。


■東芝の今後「課題は独立専業」

――独立専業が大事と。ちょっと先ほどの出資ですが、結局、東芝の半導体会社にどこが出資することになったかというのをまとめてみます。まず、我々は、“日米韓連合”と呼んでいますが、日本からは「東芝本体」と「HOYA」ですね。そして、アメリカの投資ファンド「ベインキャピタル」と「アップル」などのIT企業4社、そして韓国は半導体メーカーが間接的に出資するということで、こういう日米韓連合になったんですけれども、先ほどおっしゃった独立、専業が大事というと、独立という意味では、まだちょっと東芝が一時期入ってますから、独立しきれてはいないですよね、このスキームだと。

 そうですね。そういう意味でいくと、東芝の半導体子会社が、今東芝という大きな枠組みの中の100%の子会社に行きますと、別会社の経営を取っているとはいえ、やっぱりどうしても東芝の中での制約、東芝を通しての意思決定っていう、そこはやっぱり独立と違う、もう一つの意思決定をしなきゃいけないですし、それから半導体ですから、毎年毎年、かなりの設備投資をしなきゃいけない。


――何千億円ですよね。

 設備投資の原資も大きな枠の中から配分をもらうのか、自分たちが資金調達をしていくのか、これはやっぱり独立専業の強みっていうのを、どこまでこの体制で、追求できていくのかと。このあたりは今後の課題にもなるかもしれません。


――なるほど。これがどうして最初から産業革新機構が入らなかったかというと、東芝がウエスタンデジタルと裁判をしていますので、そういった裁判の行方がどうなるか分らない中では、国のお金も入っている機構としては、出資は今、まだせず―

 そうですね、はい。


――この裁判がクリアになったときに…

 また検討すると。


■揺らぐ“日本品質”、どう改革すべきか?


――勝又社長にもう一つ伺いたいことがあるんですが。今、自動車メーカーの無資格検査だったり、神戸製鋼のデータ改ざんなど、「日本のものづくりの信頼」というのが揺るがされかねない問題というのが多いですよね。これから日本のものづくりって、どうなっていけばいいと思っていらっしゃいますか。

 そうですね。これは大きなテーマなので難しいんですが、今後は、やはり「正しいことをリスクを取ってでもやる」という意識の徹底と、それから、逆に言うと「正しいことをしないことはリスクである。リスクを取らないこともリスクである」――そういった今までのリスクは悪いことだ、リスクは避けるべきだっていうことから、ちょっともう一つ、高い次元になった意識への改革。これを日本の産業全体でやっぱりシェアしていくことも、大事なのかなと思っております。