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「リスクとるのが仕事」革新機構・勝又氏1

2017年11月21日 20:47
「リスクとるのが仕事」革新機構・勝又氏1

 キーワードを基に様々なジャンルのフロントランナーからビジネスのヒントを聞く「飛躍のアルゴリズム」。今回は産業革新機構の社長・勝又幹英氏。かつては企業再生のプロとして、現在は政府系ファンドのトップとして、企業の成長支援と業界再編を担う勝又氏、視線の先には何が見えているのか。



■勝又幹英氏のプロフィール

 1960年生まれの57歳。勝又氏は大学卒業後、旧日本興業銀行(現在のみずほフィナンシャルグループ)に入行。米・ニューヨークでデパートの再生などを担当し、その際に親しくなったメリルリンチのアメリカ人の友人からの誘いで、1999年にヘッドハントを受け、メリルリンチ日本証券に入社。その後、自ら、日本初の事業再生型投資ファンド「日本みらいキャピタル」の設立など、ファンドの社長を歴任。2015年6月には産業革新機構の社長に就任した。


■現在は「再生」でなく「成長支援」


――ここまで経歴を見ますと、“企業再生のプロ”という印象を受けるんですけども、今までどれくらいの企業の再生をされてきたんでしょうか。

 そうですね。企業再生というのは、なかなか骨の折れる仕事ですので、件数にしたら数社というところかと思います。


――では、現在の産業革新機構のお話は、後半にじっくりと伺うことにしまして、企業再生のほうはご自身で会社を立ち上げられたりして、それまではずっと“再生”だったんですが、革新機構は、事業再生というよりは――

 オープンイノベーションを通じて、日本の産業に活力を与える成長資金を投入していくのが、私たち、産業革新機構の役割ですね。


――実は、そこを結構こだわられていて、昔、業績が不振の企業を支援する産業再生機構というのがありましたので、混同されやすいところがあるんですけど、今の産業革新機構というのは、「成長支援」というところでこだわってやってらっしゃると。

 はい。


■「再生できる企業」は何が違うのか?


――その成長支援の話は後半に伺うことにしまして、まずは企業再生について伺いたいと思います。1つ目のキーワードは「再生できる企業/できない企業、決め手は〇〇」。勝又社長から見た決め手、ズバリ何でしょうか。

 ひと言で言うと、経営者、もしくは創業者が持つ自分の会社の製品サービスに対する「情熱」とか「熱い思い」とか「こだわり」…こういったものがとても大切になると思います。


――普段、勝又さんと話していると、とても理路整然とされていますので、その大事な決め手っていうのは、例えば市場の規模や、その商品の競争力とかそういうものがいろいろ出てくるのかなって思っていたのですが、「情熱」とか「思い」という言葉が出てきたので、具体的なケースをちょっとお伺いしたいなと。

 牛が赤ちゃんを産むときに、分娩をするんですけど、「分娩事故を防止する装置」を作った創業者の社長さんがいました。この会社は一時、非常に苦労していたんですが、3年間かけて、非常に情熱を燃やして、「牛のためにこの製品を世の中に出したい」――この強い思いが、私、当時ベンチャーキャピタルもやっていたんですが、非常に心に響いて投資支援をさせていただいたケースがあります。


――出資を決めたきっかけというのは何だったんですか。

 投資をする時に、数字の計算とかありますけど、その他に、実際にその製品を使っているお客さんのところに行って、お客さんの声を聞くというのは、とても大事なプロセスです。私も実際に聞いたところ、牛の赤ちゃんが生まれるときに、だいたい1割ぐらい死産してしまうんですが、この機械を使うことによって、牛の死産率が抑えられる。これを社長さんが一番大事に思って、今の会社を立ち上げたい――ここがこの事業、会社が成長していくために、一番大事なポイントなのかなと。そういうふうに、これはお客さんの声を聞いて、理解した次第です。


■“安易な気持ち”では何年も続かない


――いろんな状況がそろっていても、やっぱりトップに立つ方の情熱というのは、大きなウエートを占めるものなのでしょうか。

 そうですね。事業の再生とか立て直しは、ものすごい精神的なストレスであるとか、コミットメントが必要とされますから、ただもうかるんだろうとか、上手くいったらいいな、というぐらいの気持ちだと、なかなかその何年にもわたる過程を通過できない。そのためには、やっぱり思いとか情熱っていう心の部分が、とても大事になってくると思います。


――その心の部分が、後々、会社の軸になることになるかもしれませんね。

 最終的にはそうなりますね。そういった社長さんを見て、従業員の方たちが「じゃあ、彼のためにがんばろう、ついていこう」っていう、そこももう一つ大きな力になっていきますので。