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想像を実現する創造力 育むのはデジタル1

2017年10月25日 21:34
想像を実現する創造力 育むのはデジタル1

 キーワードを基に様々なジャンルのフロントランナーからビジネスのヒントを聞く「飛躍のアルゴリズム」。今回はNPO法人「CANVAS」理事長の石戸奈々子氏。デジタル時代における子どもの“学び”のあり方とは―


■石戸奈々子氏のプロフィール

 1979年の東京生まれ。東京大学工学部を卒業後、アメリカのマサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、2002年にNPO法人「CANVAS」を設立。子どもたちの創造・表現活動のデジタル開発にも取り組みながら、経済産業省の産業構造審議会委員や慶應義塾大学准教授などを務めている。


■50万人の子どもたちが参加

――CANVASは、子どもたちの創造力を育む学びの場をワークショップなどで提供しているということですが、実際にはどのような仕事をしていらっしゃるのでしょうか?

 この写真は、ワークショップコレクションというイベントの一環で、子どもたちがワークショップに参加している様子です。子どもたちが友達と共同して、何かを創っていく活動をワークショップと言っているんですが、そんな活動をこれまでに約50万人の子どもたちに提供してきました。

 私たちは、デジタル時代の子どもたちの“創造的な学びの場”を産・官・学連携で作っていきたいなと考えていて、NPO法人CANVASを2002年に設立しました。

■コンピューターにできない“創造力”を

 これからを生きる子どもたちにどんな力が必要かと考えると、世界中の多様な価値観の人たちと共同して、そして、新しい価値を創り出す力、言葉を変えるならば、コンピューターには決して代替できない力としての創る力とコミュニケーション力の2つが重要ではないかと思いまして、それを育むような学びの場としての活動をずっと作ってきたんです。

 いわゆる世界が変わるからこそ、知識の記憶・暗記型の学びから思考・創造型の学びへ変えていきたい、そんな思いで団体を設立して、日々、活動しています。


――(子どもたちが遊んでいる)こちらの写真は?

 活動の中で、子どもたちが自分で自由に表現したり、何かを創り出したりするようなツールも作っていきたいということで、ありとあらゆるデジタルデバイスで動く、子ども向けのコンテンツの開発も行ってるんですが、それで子どもたちが遊んでいる様子です。私たちはそれを作るだけではなくて、良いものを子どもたちにどう伝えていくかということで、毎年1回、良い子ども向けのデジタルコンテンツを表彰する「デジタルえほんアワード」という活動や「国際デジタルえほんフェア」という活動をしています。世界48か国からコンテンツが集まってきていて、子どもたちは世界中の表現で今ちょうど遊んでいるところですね。


■根強くあった「デジタル」に対する反発

――今では、テレビや雑誌でプログラミング教育が紹介されることが増えてきましたが、15年間の活動の中には、保護者の受け止め方も変わってきたのではないでしょうか。1つ目のキーワードは「ITは子どもに敵?」。CANVAS設立当初は、どのような声が多かったのでしょうか?

 初めの頃は「この人たち何してるんだろう?」という声がすごく多く、ワークショップというと、「何のお店ですか?」とか、クリエーティビティーというと、私たちは日本中の子どもたちの創造力の底上げをしたいんですけど、「アーティストを育てる活動をしてるんですか?」とか、IT・デジタルを使うというと、「デジタルを子どもに渡すのって危険じゃないですか」とか、特にデジタルと子どもということで言うと、結構反発というか、反対の声がすごく多かったんです。

 しかし、子どもと新しいメディアの関係ってずっとそうだったんじゃないかとも思っていて、例えば、本が出た時にも「本なんか読んでないで、おじいちゃん、おばあちゃんの話を聞きなさい」と当時、言われたといわれていますし――テレビもそうですよね(笑)。“1億総白痴化”するなんて言われたりとか、2000年代前半になって、青少年が携帯電話を使うようになると、子どもに携帯を持たせるなって動きがあったりとか、そういう意味では、ITと子どもというと、必ずしも好意的な声だけではなかったというのが当時の状況だったと思います。


■「あれ?いいんじゃない」という声に

――あまりくじけなかったですか?

 子どもたちが実際に使っている姿を見ると、本当に大人がびっくりするぐらい目を輝かせながら自由に自分の気持ちを表現していく姿が見られるんです。そういうのを見ると、保護者の方とか学校の先生とかも「あれ?いいんじゃない?使い方を間違えなければいいんじゃない?」という声もあって、だんだん共感の輪が広がっていく感覚がちょっと楽しかったです。

 例えば、ワークショップコレクションというイベントは、まさにそういうテクノロジーを使って子どもが創って表現をするワークショップを一堂に集めた博覧会イベントで、初めて開催したときは500人の参加だったのが、今では2日で10万人ぐらい参加するんです。そういうふうにどんどんどんどん理解してくれる人が増えてく感覚がよかったと思います。


■「結局コンピューター」という時代へ

――今、ITがダメだなんていう親は全くいないと思うんですけれども、何か流れが変わったなって思ったような時期はありましたか?

 本当に15年間ずっと、たくさんの保護者とか子どもたちと触れてきたんですけど、変わったかなと感じたのは、2010年ぐらいからです。

 でも、2010年ってタブレットとかスマホとか新しいデバイスが一斉に登場した年でもあるんです。そうすると、今となってはかなり多くの保護者とか子どもたちが当たり前のように、生活の中でそういうデバイスを使っていく。さらにここ数年で、技術はまたさらに発展して、IoT――いわゆる身の回りのもの全てがコンピューター化するってことが認知されてきていて、そうすると、普通の私たちの生活を振り返ってみても何をするにも結局コンピューターが関わってくる。私たちの生活、経済、文化、社会が、基本的にコンピューターで支えられていて、「それって、プログラミングで動いてるんだよね」という感覚が広がっていったなと2010年以降から思うんですね。

 コンピューターが人に近づいてきて、そうすると、保護者とか、子どもたちも「あれ?この原理原則って知っていた方がいいのかもしれない」という感覚が芽生えてきたかなとは思います。でも、いまだに反対もありますよ(笑)。


■「デジタルとのつきあい方」を学んでおく

――ずっと子どもが1日、スマホを見ているっていうことは今の親には、ちょっと悩みどころには見えて、そこのつきあい方っていうのはまだ難しいところもありますよね。

 そういう意味でいうと、私たちもデジタル万歳と思っているわけではなくて、どんなツールでもやっぱり、メリット・デメリットがあると思いますし、いろんなものとのバランスをとりながら、適切に使っていく。逆に言うと、適切に使える力を小さいうちから使いながら育んでいくってことがすごく大事なんじゃないかなと思って活動しています。