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皇后さま83歳 質問へのご回答全文2/2

2017年10月20日 5:34
皇后さま83歳 質問へのご回答全文2/2

 この一年を振り返り、心に懸かることの第一は、やはり自然災害や原発事故による被災地の災害からの復興ですが、その他、奨学金制度の将来、日本で育つ海外からの移住者の子どもたちのため必要とされる配慮のことなどがあります。また環境のこととして、プラスチックごみが激増し、既に広い範囲で微細プラスチックを体内に取り込んだ魚が見つかっていること、また、最近とみに増えている、小さいけれど害をなすセアカゴケグモを始めとする外来生物の生息圏が徐々に広がって来ていることを心配しています。こうした虫の中でも、特に強い毒性を持つヒアリは怖く、港湾で積荷を扱う人々が刺されることのないよう願っています。

 カンボジアがまだ国際社会から孤立していた頃から五十年以上、アンコール・ワットの遺跡の研究を続け、その保存修復と、それに関わる現地の人材の育成に力をつくしてこられた石澤良昭博士が、八月、「マグサイサイ賞」を受賞されたことは、最近の嬉しいニュースの一つでした。博士が「カンボジア人によるカンボジア人のための遺跡修復」を常に念頭に活動され、日本のアジアへの貢献をなさったことに深い敬意を覚えます。
 医学の世界、とりわけiPS細胞の発見に始まるこの分野の着実な発展にも期待をもって注目しており、これにより苦しむ多くの病者に快復の希望がもたらされる日を待ち望んでいます。
 スポーツの世界でも、様々な良い報(しら)せがありました。特に女子スピードスケートの世界スプリント選手権で、日本女子が初めて総合優勝に輝いたこと、陸上競技百メートル走で、遂(つい)に一〇秒を切る記録が出、続いて一〇秒○○の好記録がこれを追う等、素晴(すばら)しい収穫の一年でした。現役を引退するフィギュアスケートの浅田真央さん、ゴルフの宮里藍さん、テニスの伊達公子さんの、いずれも清(すが)すがしい引退会見も強く印象に残っています。
 将棋も今年大勢の人を楽しませてくれました。若く初々しい棋士の誕生もさることながら、その出現をしっかりと受け止め、愛情をもって育てようとするこの世界の先輩棋士の対応にも心を打たれました。
 宗像・沖ノ島と関連遺産群がユネスコの世界遺産に登録されることも喜ばしく、今月、宗像大社を訪れることを楽しみにしています。

 今年もノーベル賞の季節となり、日本も関わる二つの賞の発表がありました。
 文学賞は日系の英国人作家イシグロ・カズオさんが受賞され、私がこれまでに読んでいるのは一作のみですが、今も深く記憶に残っているその一作「日の名残り」の作者の受賞を心からお祝いいたします。
 平和賞は、核兵器廃絶国際キャンペーン「ICAN」が受賞しました。核兵器の問題に関し、日本の立場は複雑ですが、本当に長いながい年月にわたる広島、長崎の被爆者たちの努力により、核兵器の非人道性、ひと度使用された場合の恐るべき結果等にようやく世界の目が向けられたことには大きな意義があったと思います。そして、それと共に、日本の被爆者の心が、決して戦いの連鎖を作る「報復」にではなく、常に将来の平和の希求へと向けられてきたことに、世界の目が注がれることを願っています。

 今年も大勢の懐かしい方たちとのお別れがありました。犬養道子さん、医師の日野原重明先生、三浦朱門さん、大岡信さん、元横綱の佐田の山さん、新潟県中越地震の時に山古志村の村長でいらした長島忠美さん、宮内庁参与として皇室を支えて下さった原田明夫さんなど。また、この一年は「うさこちゃん」のディック・ブルーナさん、「くまのパディントン」のマイケル・ボンドさん、「コロボックル物語」の佐藤さとるさん、絵本作家の杉田豊さんなど、長く子どもたちの友であって下さった内外の作家や画家を失った年でもありました。
 今から二十五年前、アルベールビル冬季五輪のスピードスケート一千メートルで三位になった宮部行範さんの、四十八歳というあまりにも若い逝去も惜しまれます。入賞者をお招きした赤坂御所で、「掛けてみます?」と銅メダルを掛けて下さったことを、ついこの間のことのように思い出します。

 昨年の十月には、三笠宮様が百歳の長寿を全うされ、薨去になりました。寂しいことですが、大妃殿下が御高齢ながら、今も次世代の皇室を優しく見守っていて下さることを本当に有り難く、心強く思っております。
 身内では九月に、初孫としてその成長を大切に見守ってきた秋篠宮家の長女眞子と小室圭さんとの婚約が内定し、その発表後程なく、妹の佳子が留学先のリーズ大学に発(た)っていきました。
 また、この六月からは、私どもの長女の清子が池田厚子様のおあとを継ぎ、神宮祭主のお役に就いております。
 陛下の御譲位については、多くの人々の議論を経て、この六月九日、国会で特例法が成立しました。長い年月、ひたすら象徴のあるべき姿を求めてここまで歩まれた陛下が、御高齢となられた今、しばらくの安息の日々をお持ちになれるということに計りしれぬ大きな安らぎを覚え、これを可能にして下さった多くの方々に深く感謝しております。