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クルド人自治区“独立”なぜ今目指すのか?

2017年10月13日 16:38
クルド人自治区“独立”なぜ今目指すのか?

 イラク北部のクルド人自治区で独立の是非を問う住民投票が行われ、9割以上が独立に賛成した。彼らが今、独立に向かう背景には「イスラム国」の存在があった。


■「クルド人自治区の独立」賛成92.7%

 「バイバイ!イラク!」「バイバイ!イラク!」――独立賛成が9割を超えたイラク・クルド人自治区の住民投票。クルド人は「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれ、3000万人とも言われる人々が、イラクやトルコ、イランなどにまたがって暮らしている。住民投票によって、独立の意思を示したがイラク政府は認めない考えだ。

 さらに、トルコやイランは独立運動の“飛び火”を恐れて、住民投票に猛反発。自治区との境界付近で軍事演習を行うなど、圧力を強めている。


■背景は「イスラム国」との戦闘

 今回、クルドが住民投票に踏み切った背景のひとつが、過激派組織「イスラム国」との戦いだ。クルド自治政府が実効支配するイラク・キルクーク。高さ、約40メートルの巨大なクルド人の兵士像は「イスラム国」から街を守った功績をたたえて、造られたモノだという。

 兵士像のデザイナー「クルド人兵士の活躍を考えれば、もっと大きくてもいい」

 さらに、自治区の都市スレイマニアの博物館では、「イスラム国」との戦いをテーマにした展示も。犠牲となった兵士の写真が壁一面に展示され、クルド人がいかに勇敢に戦ったかを紹介していた。

 博物館スタッフ「『イスラム国』と数多く戦ってきたからこそ、今が独立を宣言するタイミングだ」


■“第2のドバイ”の期待が―

 高まる独立への期待感。一方で、ある不安が垣間見えた。イラクの中では比較的治安がいいクルド人自治区。そのため、外国から投資が集まり、中心都市・アルビルは、“第2のドバイ”とも呼ばれた。しかし―

 空き地に立つ可児記者「このエリアには高層ビルなどを建設する一大プロジェクトが予定されていましたが、現在工事はストップしています」

 2014年ごろから景気が低迷。その理由もまた「イスラム国」だった。クルド人部隊と「イスラム国」との戦闘や、避難民キャンプの運営などで自治政府の借金が増加。すると、投資が減り、景気が悪化した。あるアルビル市民は「去年は4か月、今年は3か月給与が未払いだった」と話す。


■クルド独立を阻む“壁”

 こうした状況の中、住民投票を実施したことで、景気の低迷に拍車がかかる可能性があるという。アルビル市内のスーパーではすでに異変が起きていた。

 防犯カメラの映像を見せてもらうと、レジの前に長蛇の列があった。日付は9月24日、住民投票の前日、品不足や値上がりを恐れて、人々が食料品などを買いだめしていた。

 店員「突然、多くの客が店に来て、とても混雑した。彼らは米や油などを買い求めた」

 実際、イラク政府は、自治区の空港を発着する国際線を停止。さらに、トルコやイランに対し、自治区との境界の封鎖を要請した。クルドを孤立させ、経済的打撃を与える狙いがあるとみられる。

 独立への期待と不安。悲願達成の道筋はまだ見えていない。