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軍政“黙認”?タイ前首相、国外逃亡のナゼ

2017年9月29日 18:53
軍政“黙認”?タイ前首相、国外逃亡のナゼ

 タイで初めての女性首相となったインラック前首相。職務怠慢の罪で起訴されたが、先月、判決が言い渡される前に突然、国外へ逃亡した。背景には3年以上も続く軍事政権との対立があった。

 先月1日、タイの最高裁判所の前で集まった支持者に囲まれるインラック前首相。在任中、市場価格よりも高くコメを買い上げる制度を導入し、国に多額の損失を与えたとして職務怠慢の罪で起訴されていた。

 インラック氏は「私は政治的なゲームの犠牲者だ」などと、一貫して無罪を主張していた。

 首相時代に日本も訪問したインラック氏は、2006年のクーデターで国を追われたタクシン元首相の妹にあたる。

 タクシン元首相はタイ東北部の農民など貧困層を支援する政策に力を入れ、その支持者らは「タクシン派」と呼ばれた。その支持はインラック氏にも引き継がれた。

 一方、軍や財閥など都市部の富裕層を中心とする「反タクシン派」は「タクシン氏らが行ったのはバラマキ政治だ」などとして強く批判していて、タイでは10年以上にわたって両者の対立が続いてきた。

 今回、問題となったコメの買い上げ制度は、タクシン派の地盤である農村部の支持を強化する狙いがあった。このため、インラック氏が裁判で厳しい判決を受ければ、反発したタクシン派が各地で暴動などを起こす懸念もあった。

 そして、迎えた判決日の先月25日、ところが、裁判は急きょ中止になった。集まった支持者はあっけにとられている。病気を理由に出廷しなかったインラック氏だが、実はこの時、国外逃亡を図っていた。

 厳しい監視の目をかいくぐって自宅を出たインラック氏は隣国カンボジアに入り、裁判前日の午後にはシンガポールに逃亡していたのだ。現在は兄のタクシン氏の拠点があるドバイにいるとみられている。

 周到に準備され、実行されたとみられる今回の逃亡劇には、2014年のクーデター以降続いている軍事政権が関与したのではないかとの声も少なくない。

 タマサート大学・シッティッポン准教授「インラック氏が刑務所に入れば、不満に思う者が反発し、混乱が起きる。それを防ぐため、インラック氏と軍政の間で何らかの合意があったのではないか」

 軍事政権が国内の安定を最優先とし、逃亡を“黙認”したという。

 一方、インラック氏の逃亡でタクシン派は来年に予定されている総選挙の顔を失い、大きな痛手となった。

 タクシン派の政党幹部「軍はハッピーだ、絶対に。この結果を求めていた」

 タクシン派の支持者が多いタイ東北部の農民からは「(逃亡は)悲しくて、とても残念です」「戻ってきてほしい。彼女の行いは我々農家にとって、とても良いものだった」

 一方、軍事政権はタクシン派を切り崩そうと、農村部で様々な振興策を展開している。ある村では、軍事政権の補助で「ナマズの養殖場」が造られた。

 村長「今の軍事政権を支持します。過ぎたことは仕方がないので新たに進むことを考えたい」

 インラック氏の逃亡から1か月余り、本人不在の中、今月27日出された判決は禁錮5年という厳しいものだった。

 今のところタクシン派に目立った反発はないが、来年の総選挙に向けて再び不安定化する可能性は否定できない。