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“ソニーの頭脳”が語る人工知能の未来図3

2017年9月4日 20:30
“ソニーの頭脳”が語る人工知能の未来図3

 ソニーコンピュータサイエンス研究所社長・北野宏明氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。3つ目のキーワードは「人間を超えるかもしれないAI。いま本当に心配されているのは?」。AIの作り手側である北野氏は、その能力をどう見ているのだろうか。


■人工知能を作っているのは人間

――「人間を超えるかもしれないAI。いま本当に心配されているのは?」ということで、囲碁や将棋の世界でも、もうすでに人間に勝つロボットが出てきていますけれども、いつか人間はロボットにとって代わられてしまうのではないかなと…

 それはない、ないと思います(笑)。

――断言できますか。

 断言できます。それは、まず人間と人工知能が勝った負けたというふうに言うんですけど、実は、非常に天才的な囲碁のプレーヤーの人と、多くの研究者の能力の結晶である人工知能システムの戦いであって、どっちも人間が勝ってるんですよ。

 人工知能システムは、どっからか「ふっ」と現れてるわけではなくて、あれを作っているエンジニアがいるわけです。だから、「一人の天才の能力を多くのエンジニアとサイエンスの蓄積で凌駕することができるか」ということであって、別に人工知能に負けてるわけじゃないんです、人間が作ってますから。

 同時にやっぱりそれだけの能力があるものは、我々が有効に使うことができるわけですよね。囲碁だと勝った負けたになりますけど、例えば、いま自動走行とか話題になってますけど、車の自動走行で、もっと安定して安全な車ができるとか、いろんなとこで使えることになりますから、我々の生活はより豊かになるってことになるんじゃないかなと思います。


■人間は「予想外」のことができる

――やっぱり人間ならではのところは、残っていくっていうことなんでしょうか。

 そう思います。やっぱりAIがやるのは、最適化とか効率を上げるとか、ある意味で正解を出すっていうところなんですけど、例えば問題を引き起こすとか、予想外のことをやるというのは、人間のほうが得意なんじゃないかと思っています。人工知能システムだけだと、効率的ではあるんだけど、ある意味で面白くないこともありますから、人間の予想外のことをする、問題を引き起こす能力っていう部分は残るんじゃないかと思います。


――確かにさっきのサッカーの試合でも、ロボットはそんなに意外なことはしなそうですよね。

 そうなんですよ。だから最初はですね、実はロボカップの放映権を取ろうというふうに考えたんですね。ところが、いろいろ考えて、いろんなテレビ局さんと議論して、なかなか今の段階じゃ成り立たないんですね。なぜかというと、人間は人のドラマが欲しいんです。

 例えば、F-1でもドライバーがなんかやっちゃったとか、ケンカしてるとか、どっかで飲んで暴れてるとか、そういうのが面白いんです。ロボットはそれがないんです。暴れもしないし、ケンカもしないし、そこは人間はあまり面白さを感じないので、番組として例えば、紹介していただいて、「わ、すごいな」というのはあるんですね。

 そこで、毎週それを見て面白いかっていうと、残念ながら今はキャラクターっていうのがロボットにはやっぱりないので、あんまり面白くないとは思います。あんまりキャラクターがあるというAIも、使いにくいので、ちょっとそれも考えものなんですけど。


■AIの出現で新しい仕事も増える

――勝敗ごとに関しては、そうかもしれないですけれども、例えば私たちの仕事の一部がロボットに取られてしまうんじゃないかとか、そういう心配はありますよね。

 単純に、読み上げだけなら可能だと思います。絶対かまないアナウンサーは今、実績的にはいつでもできる状態なんですけど、実はかんでる部分が面白いとか、見てる方はそういうのがあるのは人間の面白さなんじゃないかと思いますね。

――「人間の仕事がなくなってしまう」という話について、職業でわかりやすく、例えることってできますか。

 なくなりはしないんじゃないかなと。知的なんだけど単純な作業とか、割と簡単なマニュアルな手作業な部分というのは、ロボットの技術に変わるとは思いますけど、その分、他で新しいことが多分できてくると思うんですよ。

 人工知能ができたがために、今までにないサービスが生まれてくるということができると思うので、そこにシフトしていくと。問題はそのスピードだけだと思いますね。それがゆっくりなら、ちゃんとローテーションする。

 例えば、いま銀行は全部計算機でやっていますから、お金の勘定をしないんですよね。でも、その前は、銀行は一生懸命計算していたわけですよね。あれがなくなったからといって、別に失業が起きているわけではないと。ただ、それは計算ができるために、新しいサービスが生まれていることになるわけですね。

 そういう違いは起きると思う。だから変革はすごく起きると思うんですけど、失業するかどうかというと、必ずしもそうでもないとは思います。むしろ人工知能を使って、もっと新しいことができるということを考えた方が生産的なんじゃないかと思います。


■最終的な意思決定をするのは人間

――人の採用とか、そういうところにも人工知能が使われて、そこに抵抗感を持つ人もいるんじゃないかと思うんですが。

 それは採用でも人工知能の結果を誰かがこれでいいやという採用担当者がいるんだと思うんです。で、たぶん、その採用担当者は、それでうまくいったら「僕が採用したんだよ」と(笑)。だめだったらお前がいけないって言われるとか。

 誰か最終的な意思決定をする人、責任者がいるのが人間社会ですから、そこの部分は残るんだと思います。人工知能はある意味でアシスタントというか、そういう人がより効率的に仕事ができる、もっと質のいい仕事ができるための道具だと思えばいいんじゃないかと。

 人工知能というと、何か人間みたいな生命体があるみたいなイメージを持たれる方が多いんですけど、道具だと割り切った方がいいんじゃないかと思いますね。


■未来のAIはどうあるべきか

――今ですね、人類や社会のためにどういうAIが一番いいのか、どういうふうに考えるべきなのかというような議論が国際的に始まっていますね。ソニーが日本で唯一参加して、その代表として北野さんが出られているわけですが、いったいどういう議論が行われているのでしょう。

 これは「パートナーシップ・オン・AI」という団体で、メジャーな人工知能関係の会社がこぞって入っているんですけど、人工知能をどれだけいい方向に、社会に役に立つ方向に開発するべきかという議論であるとか。

 あと先ほどの認識のギャップですよね。怖いんじゃないかとか、仕事の問題がどうなのかっていうことなどの誤解を解く。ただ、仕事の問題も、ちゃんとした導入をすれば、問題はありませんけれど、間違えると、やっぱり本当に出てくる可能性もありますから。

 どうやって社会に入れていくかということを議論するということで、第1回の会合が10月の末にベルリンで行われます。これを皮切りに、企業や政府、NGOですね、学会とかも含めて国際的な議論を活発化させていくということになります。