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“ソニーの頭脳”が語る人工知能の未来図2

2017年9月4日 20:25
“ソニーの頭脳”が語る人工知能の未来図2

 ソニーコンピュータサイエンス研究所社長・北野宏明氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「ロボットで、ワールドカップサッカーの選手に勝てるサッカーチームをつくろう」。その舞台裏を聞く。


■未来に必要な技術を予測したら「サッカー」なった

――「ロボットで、ワールドカップサッカーの選手に勝てるサッカーチームをつくろう」と驚きのキーワードがありますが、ロボカップの世界大会を始められたというのは、どういった方たちと、どういった目的で始まったんでしょう。

 これはAIBOの開発が始まったと同じぐらいの時に、ソニーとは別に世界的な団体をつくって始めることになったんですが、これは何を始めたかというと、人工知能とロボットの研究開発は、過去にも多くやられていたのですが、30~50年という長いスパンで見た時に、どういう分野で人工知能(ロボット)が使われて、それを実現するために、何をしたら一番研究が早く進むかということを考えたんですね。

 その時に考えたのが、30~50年…だから、1995年くらいのときに、2020~2030年ぐらいに、自動走行車であるとか、物流ロボットであるとか、災害救助ロボットとか、介助ロボットですね、こういうものが非常なトピックになっているだろうということを予測しまして、その技術要素が全部入っていて、ひと言で世界中の人にわかるテーマということで、いろいろ考えたんですが、最終的には「サッカーで世界チャンピオンになる」というのをテーマにしました。

 サッカーができるロボットっていうだけでは、いろいろ解釈があるわけですね。「まあ、これでできてるね」って。でも、それではやっぱり“逃げ”が出てきてしまうので、最終的には2050年までに、まあ、ワールドカップのチャンピオンチームに勝つロボットってことを考えたわけです。まだ、2050年まで少し時間がありますから、チャレンジは今でも続いてるということですね。


■「これは大変なロボットができた」

――今年は20周年ということで、名古屋で行われた今年のロボカップの写真・映像をお借りしました。ロボットと人間のサッカー、そういうものも行われたんですよね。相当手ごわいロボットなんですか。

 手ごわいですね。今まで私は、外で見てただけなんですね。余興としてやってましたから、まあ、人間が手加減してると思ってたんですね。自分が実際にピッチの上に立ってみた時に、これは大変なことになったと思いました。40キロぐらいあるロボットなんですけど、これが何台か秒速4mくらいのスピードで、コンスタントにひたすら動き回るんですよ。

 一瞬でも考えちゃうと、数的優位をつくられて取り囲まれるとか、パスコースすぐ消されるんです。人間のサッカーは間合いを無意識のうちにつくるんですけど、ロボットには間合いがないんですよね。ひたすらガシガシ来るんです。

――疲れないし。

 そう、疲れないし(笑)。サッカーといってもサッカーやるのはいいのだけど、人間のサッカーとは全然違うものに発展しつつあるというのが今の現状だと思います。これは世界45か国の研究者が何千人も集まって、毎年これを繰り広げていてですね、最初はもう動かなかったんです。


■産業に展開できることが重要

 今このレベルまできましたし、途中にいろんな会社ができてきて、そのひとつの会社はアマゾンに買収されまして、「アマゾン・ロボティクス」という会社になっています。

 今、アマゾンの倉庫の中は、全部そこの会社のロボットで動いています。そのロボカップのさっき物流ロボットというのが、ひとつのテーマだって言いましたけど、実際にそれが、世の中に入るっていうのが、もう実現し始めましたね。これがまあ次々とですね、いろんなテーマで続々出てきているという感じです。


――でも、パスを見ていても、絶対もう私よりも上手いなって(笑)。すごいですよね。

 これ見てるよりも、ピッチに立った時にですね、ものすごいスピードで向かってくるのが怖いですね。これでもかなり、まだ抑えてると思います、本気でやると危ないので。

――それでも、ワールドカップのチームに勝つというところを最終目標にしながらも、その過程が大事というところもありますよね。

 そうですね。途中で産業に展開していくというところが非常に重要ですし、ワールドカップのチームに勝つと言っても、車輪型ではなくて、人間型でないと試合をしてもらえませんから、まだまだ、いろんな意味でのチャレンジというのをこれから積み重ねていくと。その過程で、もっといろんなものが世の中に歓迎されるんじゃないかと思ってます。