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最善治療のため-がんの医療情報どう選択?

2017年7月6日 21:41
最善治療のため-がんの医療情報どう選択?

 がんへの関心が高まり、様々な情報が飛び交う中、最善の治療を受けるためにはどのように情報を見分け、選択したらいいのか。

 医療情報についての正しい知識を広める第一人者の2人、抗がん剤を使った治療だけでなく、治療方針の相談にのるなど患者を総合的に診ている日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科医、勝俣範之さんと、臨床医を経験した後、医療政策を研究しているアメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の助教、津川友介さんに、日本テレビ社会部の鈴木美穂記者が聞いた。

■がんの医療情報の現状
──がんへの関心が高まっているが、今のがん医療情報を巡る状況をどうみているか?

(勝俣さん)インターネットがこんなに普及する前の時代は情報不足で、どこにいけば正しい情報を得られるかわからない時代でしたが、今は情報過多の時代。雑多な色々な情報があって、どれを信じたらいいのかわからない時代です。

(津川さん)普段、7年前からアメリカにいるのですが、アメリカで得られる情報と日本の見比べると日本は健康意識が高く、あまりの高いので色々な情報に手を出してしまい、情報もあふれかえっています。しかも、その情報は、かなり信頼性の低いものがあふれかえっているのが現状です。
 医療の中には、明らかに白黒はっきりついているものがあって、そこの部分だけははっきりと選べるようにした方がいいと思うんですね。日本の場合は、グレーなのか黒なのかが全然わからないので、間違った情報、場合によっては詐欺まがいなものもあるのですが、そういった情報をわらにもすがる思いでつかんでしまうということが起きています。

■がんの医療情報の見分け方
──情報には“白”と“黒”と“グレー”があるということだが、白黒グレーはどう見分けたらいいのか?

(勝俣さん)白に関してはいわゆる「標準治療」とか診療ガイドラインというのが相当発達しています。

──「標準治療」という言葉は難しい。標準よりももっといい治療があるように思う人や、標準より先端がいいと思う人もいると思うのだが、標準治療というのは、一番いい治療だといるのだろうか?

(勝俣さん)アメリカで「スタンダードセラピー」というのを日本では「標準治療」といっているのですが、「スタンダード」には、「最善の」という意味が含まれていると思います。

(津川さん)大きな病院にいってもばらつきがある治療、これは“グレー”に分類されると思うんですね。これはまだ今すぐに解決できるかといったらもう少し時間がかかるかもしれません。
 今、真っ先に問題にしなくてはならないのは“黒”の部分で、間違った情報をつかまされて治らなくなってしまって亡くなってしまう、病気が悪くなってしまう、これはまず絶対に解決しなければいけない問題だと思います。

■“黒”だと気づくには
──この言葉があったら“黒”のような見分け方があるのだろうか?

(勝俣さん)
  (1)保険がきかない高額医療
  (2)厚労省が指定する先進医療に指定されていない
  (3)「最新免疫療法」とうたっている
  (4)体験談が載せられている
  (5)「奇跡の○○療法」「末期がんからの生還」などという表現。
 この中のいくつかにあてはまるものは、怪しいと疑った方がいいです。

(津川さん)「がんが消えた」という表現もそうですよね。標準的な治療をしている人は、「がんが消えた」とはあまりいいません。

(勝俣さん)「がんが治った」というと、薬事・医療機器法に違反するんです。だから「消えた」という。ほとんどのインターネット、書籍もそうですよね。

(津川さん)患者さんにもいいたいのですが、そんなうまい話はないんです。「標準」と呼ばれる、これがベストだというものを受けるべきで、あまり自分だけ特別なものを受けようと考えることが、逆にお金もうけをしようとする人たちに心の隙に入ってこられてしまうきっかけになってしまうので、注意が必要です。うまい話は何事もそうですよね。

■標準治療ができなくなったとき
──一方で、もう標準治療としてできる治療がないといわれたときに、色々なものを試したいし、少しでも長く生きたいというのが患者さんの思いだったりすると思う。そういう気持ちに対してはどうしたらいいのか。

(勝俣さん)そこは、一番患者さんの気持ちを大切にする、患者さんをうまくサポートするところなんですね。そこを医療者も社会全体もうまくサポートできていないから、標準治療が終わったら私はもうだめかと思ってしまう。そうすると怪しげな民間療法に流れていってしまうというのが日本の今の最悪の状況ですよね。
 アメリカはその辺はすごい手厚いんです。緩和ケアもすごい大切にして相当サポートもあるし、日本と比べものにならないくらいに治験(注:新しい医薬品の安全性や有効性を調べる、治療を兼ねた試験)がたくさんあって、自分が受けたい治験を受けられる。そういったところのサポートが全然違うのかなと思います。

■これからのこと
──これから日本はどうなっていけばいいのだろうか。

(津川さん)間違った医療を受けてしまって命を落とす方とか、病気が悪くなる方がいるので、社会全体としてそういう人をどうやって守って、みんながより良い医療を受けられるように、混乱しないようにできるか、考える必要があると思います。

 <プロフィル>
■勝俣範之さん
 腫瘍内科医
 日本医科大学武蔵小杉病院 教授
 国立がん研究センター中央病院乳腺科・腫瘍内科外来医長などを経て、2011年より現職。

■津川友介さん
 医療政策学者・医師
 米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教
 聖路加国際病院で内科医をした後、ハーバード大学院で医療政策学の博士号を取得、2017年より現職。