「パワハラが減らないワケ」を考える
職場でのトラブルを受け付ける相談窓口。月に1000件ほど寄せられる相談の中で、最も多いのが「パワーハラスメント(パワハラ)」だ。
厚生労働省の調べでも、パワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は年々上昇、2006年度は2万2153件だったが、2016年度には7万917件に増えている。
これを受け、厚生労働省は先月、パワハラ対策を強化するための会議を開催。法整備も視野に入れた検討をしていくとしている。
今週発売され、インターネットで話題となっているLINEのスタンプがある。「これ今日までにやっといて」とむちゃな仕事量をふられるなど、職場でのつらい一幕に共感する声があがっている。
■「パワハラ」6つの例
いわゆる「セクハラ」「マタハラ」の場合は、男女雇用機会均等法で規制されているが、「パワハラ」は今のところ法律上の定義はない。
ただ、すでに厚生労働省は2012年の報告書で、パワハラの定義を明らかにしている。それによれば「職場内での優位性を背景に業務の適正な範囲を超え、精神的・身体的な苦痛を与える行為」としている。
具体的には、次の6つの行為類型が定型的なものとされている。
「身体的な攻撃」(暴行など)
「精神的な攻撃」(脅迫や暴言など)
「人間関係からの切り離し」(隔離・無視など)
「過大な要求」
「過小な要求」
「個の侵害」
■過小な要求・個の侵害とは
過小な要求は、本来の仕事や能力に見合った十分な仕事を与えないこと。例えば営業職なのに取引先には行かせず、買い物だけを必要以上に強要するなどといったケースだ。
個の侵害は、プライバシーに過度に立ち入ることだ。例えば、休日の過ごし方を根掘り葉掘り聞かれたり、交際相手や家族のことを話すよう強要されたりするケースが挙げられる。
■3人に1人がパワハラ経験
厚生労働省が昨年度に行った調査によると、「過去3年間に受けたことがある」と答えたのは全体の約33%、つまり企業で働く3人に1人が経験していることになる。
なぜパワハラはなくならないのか。色々なケースがあるので一概には言えないが、パワハラは「職場でのいじめ」だ。
例えば殴るなどといった暴力は周りに分かりやすいため是正されやすい。しかし、パワハラは多くのケースで、人目に付きにくい場所などで、周りから分かりづらい形で行われる。さらに、加害者は「愛のムチなど」と自分を正当化する。
これが、なかなかパワハラがなくならない理由の1つだ。
■社会全体の意識改革
部下を厳しく指導することは会社のためと思いがちだが、会社がパワハラを放置すると、パワハラを受けた社員が休職・退社し、貴重な人材の損失につながることもある。
パワハラの様子を見たほかの社員も萎縮し、仕事ぶりが悪くなることも考えられる。その意味では、むしろパワハラのない職場環境を作ることが、会社の生産性向上につながるものと考えられる。
政府は今年3月の「働き方改革実行計画」で、パワハラの防止を働き方改革の重要課題と位置付けた。この機会に、政府のみならず、社会全体の意識改革を図っていくことが重要だと思う。