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増えるクマ被害「カウベルト」対策とは?

2017年6月2日 17:39
増えるクマ被害「カウベルト」対策とは?

 秋田県仙北市で先月27日、タケノコ狩りに出かけた60代の女性がクマに襲われ、死亡する事故があった。この事態を受け、秋田県や仙北市などが翌日「ツキノワグマ被害緊急対策会議」を開いた。

 秋田県では鹿角市で去年、4人が死亡した事故が大きなニュースとなったが、今年度もすでに被害が出ている。

 NNNの調べによると、ツキノワグマによる人への被害は各地で18件報告されている。去年、被害が大きかった秋田県内は5月に3件あり、うち1件で60代の女性が死亡した。


――被害が増えている背景には、何があるのか。

 クマの研究者らでつくる「日本クマネットワーク」によると、環境省が調べた2003年時点のツキノワグマ分布エリアと、「日本クマネットワーク」が調べた2014年時点の分布エリアを比べたところ、2003年時点と比べ、クマが生息するほぼ全ての地域で分布の拡大が確認されたという。


――なぜクマの分布エリアが拡大しているのか。

 様々な原因が考えられるが、1つには「過疎化」の影響が考えられる。人里と、クマが住む奥山の間の里山はかつて、人が草木を刈り取るなど、きちんと手入れがされてきた。

 クマは隠れる場所がないところを嫌う習性があるため、手入れがされた里山はクマと人のそれぞれの生活圏を隔てるいわば“防波堤”のような役割を担ってきた。

 しかし、過疎化が進むと里山が荒廃し、草木が生い茂る場所にクマが入り込むようになった結果、クマの分布エリアが広がったとみられている。


――この季節になると、クマ被害のニュースが多くなるような気がするが。

 環境省の調べによると、昨年度のツキノワグマの出没件数は6月から急増する。

 東北の場合、冬眠から目覚めたツキノワグマは6月頃から活発に動く「繁殖期」に入る。一方の人間側も、この時期から山菜採りなどに出かける人が増えるため、そこでクマと鉢合わせとなって被害や目撃が増える。

 一部の専門家らは「今年は、クマの出没は多くなるのでは」と予想している。クマはエサとなるブナなどの実が豊作だと栄養が蓄えられるので、その翌年の春に多くの母グマが子どもを産む。

 実は2015年は、ブナなどは全国的に豊作だった。そのため、去年の春にたくさんの子グマが生まれた可能性がある。その後、子グマは冬を越して成長したのち、母離れをして本格的に動き出す。これがまさに今年の今の時期というわけだ。


――クマに遭遇しないためには、どうすればいいのか。

 対策の1つとして広く知られているのは「クマよけ鈴」で、鈴の音でクマに人間の存在を知らせることができる。しかし、先月27日に仙北市で女性がクマに襲われたケースでは、女性は「クマよけ鈴」を持っていたという。

 クマは本来臆病で、鈴などで人間がいるのを感じると逃げると言われているが、最近では人間を恐れないクマが増えているとも言われるので、油断は禁物だ。


――人間を恐れないクマの存在や、分布域の拡大など問題があるが、どんな対策が考えられるのか。

 ポイントは「カベを作る」。何と言っても、被害があった地域では可能な限り、山や森に立ち入らないことが重要だ。その上でクマと人を隔てる工夫が必要になる。

 富山県の一部の地域では、人里の周りに牛を放牧する「カウベルト」いう対策を実施している。ツキノワグマは自分よりも体の大きな動物を避ける習性があるため、牛が壁の役割となっている。

 実施している地域では、クマなどの野生動物の出没が少なくなり、大きな効果が得られているという。こうした成功例を全国に広める努力が必要だろう。