×

“共謀罪”とパレルモ条約 記者解説

2017年5月30日 20:26
“共謀罪”とパレルモ条約 記者解説

 参議院の委員会で審議されている組織犯罪処罰法改正案、いわゆる“共謀罪法案”。政府は、これらの法案の成立を目指す最大の理由に「パレルモ条約」の締結をあげている。パレルモ条約とは何か、日本テレビ政治部・矢岡亮一郎記者が解説する。


――「パレルモ条約」聞き慣れない名前だが。

 パレルモ条約のパレルモはイタリアの街の名前だが、国際組織犯罪防止条約のことを指す。そして政府が今回、テロ等準備罪の新設を目指すのは、この条約の締結が最大の目的になっている。

 パレルモ条約の「パレルモ」は、イタリア・シチリア島の街の名前だが、シチリア島といえばマフィアを描いた映画「ゴッドファーザー」の舞台でも有名だ。パレルモ条約は、マフィアによる暗殺事件がきっかけで、マフィアも含めた組織による犯罪を国際的に取り締まろうという目的で作られた。

 このパレルモ条約、すでに全国連加盟国の94%にあたる187の国と地域が締結している。締結していないのは日本を含めた11か国だけになっている。


――世界のほとんどの国が締結していると。

 政府は、パレルモ条約を締結するメリットを大きく2つ挙げている。まず、1つめは、「捜査情報の共有がスムーズになること」。これまで捜査機関が外務省を通じて情報共有をしていたが、条約を結べばほぼ直接やりとりができるようになる。

 そして、もう1つは、「犯罪者の引き渡しがより確実に受けられること」。例えば日本で組織犯罪を犯した犯罪者が、外国に逃亡した場合、その国と引き渡し条約がなければ、拒否されるケースもあるが、条約を結べば、それを根拠に引き渡しが受けられるようになる。

 政府は、2020年のオリンピック・パラリンピックを控え、条約締結は、テロ対策の観点から不可欠だとしている。


――こうしたメリットがあるのに、どうして日本はこれまで締結してこなかったのか。

 条約の締結には、国がこれらの行為を犯罪として位置づけているという条件がある。このうち、政府与党は、最大の論点となっている「重大な犯罪を行うことの合意」、つまり、犯罪の具体的な計画をして準備行為をすることについては、国内に取り締まる法律がないとしている。


――では野党はどこに反対しているのか。

 民進党など野党は、パレルモ条約の締結自体には反対していない。ただ、民進党はすでにある殺人予備罪など現行の法律で条約を締結することは可能だと主張している。野党側は、法案について組織的犯罪集団の定義が曖昧で「市民が対象になるのではないか」「1億総監視社会につながる」などと批判していてあくまで廃案を求める構えだ。

 政府与党は、国会の延長も視野に入れながら、法案の成立を図る方針だ。