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原発事業撤退 東芝の“誤算”

2017年5月5日 16:22
原発事業撤退 東芝の“誤算”

 ほぼ全ての事業を本体から切り離すなど経営再建を行っている東芝。なぜ、このような事態に陥ってしまったのか。そこには、続けることも退くことも難しい、ある状況があった。

 アメリカ南部・ジョージア州のボーグル原子力発電所。アメリカで約30年ぶりに建設が進められている原発で、東芝の子会社だった「ウェスチングハウス」が設計から建設までを行っている。

 ウェスチングハウスの存在が引き金となり、東芝は「経営危機」に陥ることとなった。

 周囲を取材すると、意外なことが分かってきた。


■原発作業員が暮らすキャンピングカー

 ボーグル原発から7~8キロ離れた辺りには、キャンピングカーやトレーラーハウスなどがずらりと並んだ施設がある。ここは、原発建設を行う労働者の宿舎代わりになっている。

 この施設で暮らす労働者で、メーン州出身のポール・ワゴナーさんのキャンピングカーに、特別に入らせてもらった。大きなソファにテレビ、シャワールーム、大人が寝るのに十分なサイズのベッドもある。

 ワゴナーさん「(キャンピングカー購入には)14万ドル(約1600万円)ぐらい必要じゃないかな。(これを引っ張る)トラックは6万ドルで、このRVは7万5000ドルする」

 こうしたトレーラーを買えるだけの給料が、東芝側から支払われているのだ。


■規制が厳しくなった建設現場

 そんなワゴナーさんは「最近、原発の建設現場に変化を感じる」と話す。

 ワゴナーさん「工事を進める際の規制が厳しくなった。どのように造るか、そして造るために何が必要かといったルールや規制だね。規制が増えればコストは増える」

 ボーグル原発建設の契約が行われたのは2008年。しかし、2011年に福島第一原発事故が起きたことで、アメリカの原発建設の規制が厳しくなったという。

 設計や工事は何度もやり直しになり、予定は次第に遅れていった。去年完成する予定だったボーグル原発は、3割程度しか工事が終わっていないと言われている。

 アメリカでは、工事の遅れによる損失やコストは、建設側、つまり東芝やウェスチングハウスの負担になる。積もり積もった遅れが、約7000億円とも言われる負債につながったのだ。


■簡単に撤退できない“東芝の保証”

 さらに東芝には、この工事から簡単に撤退できない事情があった。

 契約を監理するジョージア州公益委員会のスタン・ワイズ委員長「もし(ウェスチングハウスが)工事に失敗することがあったら、東芝が代わって払うという保証がある」

 撤退しても、東芝は費用の穴埋めをしないといけない契約だという。


■コスト上乗せで電気代月200ドル

 こうした状況は、隣のサウスカロライナ州の新しい原発の建設現場でも見られる。増えたコストの一部が、すでに住民らの電気代に上乗せされていた。

 住民「電気代は月200ドルかかるの。天文学的よ。本当にばかげているわ」

 結局、ウェスチングハウスは今年3月末に破産法の適用を申請。東芝は巨額の補償を支払っても原発事業から撤退する道を選んだ。

 東芝・綱川社長は2月14日の会見で「(Q:振り返って、どこが間違いのポイント)この金額からいって、アメリカの2008年に受注した4基の原発の事業、これの影響が今考えると一番大きいと考えています」と語っている。

 今も先が見えない経営の再建。東芝に光が見えるのは、いつになるのか。