何もない…いすみ鉄道が目指した信者顧客2
「いすみ鉄道」代表取締役社長・鳥塚亮氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「『いすみ鉄道』の公募社長に応募 周囲からは無謀との声…まず手掛けたことは?」。その舞台裏を聞いた。
■なぜ鉄道会社の社長に?
――なぜ「いすみ鉄道」は社長を一般公募していたのでしょうか。
ローカル線がなかなか立ち行かなくなる。人口減少と過疎化、こういうことが進んでいって、何年後かには、人口がどれだけになるというのがわかっているわけですね。その中で鉄道が果たしてどう残っていったらいいかがわからない。鉄道の使い方がわからない。
今までどおりのやりかたではダメだというところになってきて、民間の人間の意見を活用できるんじゃないかというのが公募社長を募集した理由だと思います。
――しかし鳥塚さん自身は、世界に名だたる航空会社を退職されて、ローカル線の会社の社長に応募されるというのは、非常に勇気が必要だったのでは?
やっぱりそれは、怖いといったらなんでも怖いので。ただ、私は外資系の航空会社だったので、やはり定年まで、このまま勤めていられるかどうかという不安がありました。戦争があったり、テロがあったりする中で、航空業界は非常に大変な時代をずっと過ごしていますんで。このまま定年までいられないんじゃないかという怖さもあったわけです。
ですから、どうせ定年までいられないのだったら、できるだけ早いうちに次のステップへ行って、例えば50歳からだったら65歳までの15年間、できるような仕事をと。そういうようなことを考える必要があるだろうなというのは、この公募社長に応募するずっと以前、30代の頃から私はそう思っていました。自分で50歳で定年なんてことを、ちょうど考えていた時にこういう募集があったので、これはチャレンジしてみる価値はあるだろうと。
■脱サラして「鉄道会社をやらせてくれる!」
所詮サラリーマン“脱サラ”ですからね。さらには脱サラして何ができるかといったら、大したことできないわけですね。フランチャイズに加盟するとか、昔でいったらペンションやるとか、だけど鉄道会社をやらせてくれるわけです。
脱サラして「鉄道会社をやらせてくれる!」これはチャレンジする価値がある。まして失敗したって、私のせいじゃないからというのがあったものですから、私はそのぐらいのあっけらかんとした動機です。だからそんなに深刻なことは考えていませんでした。
■乗ってもらっても300円、400円
――ただ一方で、決められた期間に結果を出さなければいけない。そういうプレッシャーはあったと思うのですが…
それはもちろんあります。ですから例えば、その乗客をいきなり増やしていくということはなかなか難しい。
ですから駅に売店を作ってそこでお土産も買っていただくことで、当面のキャッシュフローを賄おうと、そのためには、別に無理して乗らなくてもいい。車で来てもいいから、遊びに来て立ち寄って、そして売店でお土産を買ってください。おせんべい、まんじゅう、もなかを買ってください。
鉄道運賃収入というのは乗ってもらっても300円、400円なんです。だけど、お土産を買ってもらえば1000円札になるじゃないですか。そうするとコインからお札に変わるんです。ですから、とにかく数字を稼がなきゃいけない時期は、そういうスタイルの営業をしてきましたね。
■男の人はどうでもいい、女の人です
――つまり、鉄道自体を観光にするということですか。
そうですね。
――プロフィールでもご紹介させていただきましたが、ムーミン列車のようなすごくユニークな列車も走らせていましたよね。
結局、都会の人が非日常体験を求めてやってくるのが今の旅行です。そういう今の旅行のニーズに合わせるためには、行ってみたい、乗ってみたいという列車を走らせる。そういう中で、我々はお金がない会社なので豪華な列車は無理です。蒸気機関車も無理だし、でもなんかかわいい列車を走らせればと。
男の人はどうでもいいんです。女の人です。旅行マーケットを動かしているのは女の人ですから。女の人にウケるかわいい列車、行ってみたいな、いいわねっていう、そういうシーンを展開することなら「いすみ鉄道」でもできる。それが、私がやってきたことです。