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放射能降り注ぐ中…職員語るあの日の原発

2017年3月9日 20:49
放射能降り注ぐ中…職員語るあの日の原発

 福島第一原発は6年前、津波により冷却機能が全て失われた。日本テレビが入手した写真では実はあの時、この氷を使ってまで核燃料を冷やそうとしたのだ。現場で危機を回避した職員が初めて、その真相を語った。


■首都圏にも避難の可能性が―

 水素爆発した福島第一原発4号機。壁は吹き飛び湯気が上がっていた。原子炉建屋の最上階にある燃料プール。当時、中には原子炉から取り出したばかりの熱を帯びた燃料棒など1500本が入っていた。

 もしプールに水を送りこめずメルトダウンすればまき散らされる放射性物質は、けた違いとなる。政府はその場合、首都圏からの避難も必要になると推定していた。アメリカでも―

 米原子力問題公聴会ヤツコNRC委員長「4号機の燃料プールは干上がっているだろう」「日本政府の設定よりもっと広い範囲から避難をすべきだ」(2011年3月16日)

 東京電力本店にある緊急時対策本部。当時ここで対応にあたった岡村祐一さんは「むき出しの燃料を冷やしているプールからボコボコと蒸気が上がっていると」。岡村さんは7人のチームで冷却方法を検討し手当たり次第に試した。まず行ったのが自衛隊のヘリによる水の投入。しかし、陸上からも放水したが、十分には届かなった。

 岡村さん「右往左往しながらいろんな事を考えて、それでもなかなかうまくいかない。その間燃料プールからどんどん蒸発した蒸気が毎日上がり続けている」


■「氷をぶっこんじゃうか」

 藁(わら)をもすがる思いで実はこんな作戦も試していた。当時、福島第一原発と本店などをつないで行われたテレビ会議の映像。

 本店「氷とかドライアイスとかなんでもぶっこんじゃう」

 吉田所長「OK。じゃあ氷を手配。氷手配!」

 入手した1枚の写真には、遠くは富山から運び込まれた墓石ほどの大きさの氷が原発構内にずらりと並んでいた。森林火災用のバスケットに入れ、投下する事まで決まっていたのだが、放射線量が高くヘリは飛べなかった。東電幹部に焦りが募る。

 勝俣会長「それで氷の話はどうなった?」

 小森常務「氷の話は、モノは…調達したんだけど…」

 勝又会長「自衛隊のヘリはどうなった?」

 小森常務「自衛隊のヘリの方はちょっと…」

 勝又会長「…だめで…」


■“キリン”と呼ばれる救世主

 打つ手は尽きつつあった。そんな中、市民から官邸にある情報がもたらされる。

 岡村さん「コンクリートポンプ車というのがあって、それだったら高いところに水を送れるのじゃないかと」

 コンクリートポンプ車とは、遠隔操作でアームを自在に動かし、高圧のポンプでビルの屋上などにコンクリートを押し上げることができる特殊な車両。岡村さんたちは電話をかけつづけ、3月18日横浜港でその車両を見つけた。

 岡村さん「実はちょうどある、ちょうどこれから輸出するための今通関手続きを通って横浜にあると、それはすごくほっとした記憶をおぼえています」

 複数の車両を確保したものの福島への輸送は困難を極めた。

 岡村さん「官邸のお力を借りて、道路上は警察の先導でいきましょうとか、ルートも茨城から先は道路が陥没していますんで、内陸を回るとか、でも内陸を回ると道路が狭いので、そこはもう崖を切り崩そうとか」

 そしていわき市小名浜にある東電の石炭基地まで辿り着いた。その時の写真がある。ここで丸一日かけて、東電職員への操作訓練が行われた。アームを空高く伸ばした姿。この車両には“キリン”という名前が付けられた。

 岡村さん「もう他に手段がなかったですね」「もちろん我々のみならず国、そして世界中の人たちが見守っていたと思います」


■放射性物質が降り注ぐ中

 この時の燃料プールの温度はおよそ90℃。沸騰寸前でもう時間はなかった。3月22日にキリンは福島第一原発に到着。そして午後5時17分。「(東電会見者)すいません…福島第一4号機への放水コンクリートポンプ車による放水を17時17分から開始しています」。しかし作業は困難を極めた。

 放水した水は建屋にぶつかり、放射性物質を含んだ雨となって作業員に降り注ぐ。黄色い装備の作業員。放射線を避けるため建物に隠れてコントローラーを操作していた。

 岡村さん「黄色いのは雨合羽でして」「放射性物質だとか建物についたものが雨のようにカラダに付着する」「下着のような部分に結構しみこんじゃうんですね」


■間一髪で…

 アームに取り付けたカメラの映像。緑色の構造物の下に燃料プールがある。あと数メートル水位が下がれば核燃料が露出する状況だった。4号機燃料プールのメルトダウンは間一髪で回避されたのだ。

 あれから6年。原子炉建屋に近い廃材置き場にキリンは今も置かれていた。運転席の中まで汚染されたためもう動くことはない。ノズルの塗装は、建屋の鉄骨に何度もぶつかったため削れている。

 岡村さん「我々が引き起こしてしまった事故ですから、本当に申し訳なく思っています」「協力してくださった方は一生忘れないですね」

 キリンは今廃炉の進捗を静かに見守っている。