×

3550万本の「電柱なくそう」3つの目的

2017年2月10日 18:03
3550万本の「電柱なくそう」3つの目的

■景観を損ねる「電線・電柱」

 富士山を写したある写真。せっかくの富士山を邪魔するように何本もの電線が通っている。一方で、東京・浅草寺も電柱や電線によって景観が台無しになっている。

 そこで、東京都の小池知事は先月25日、来年度の重点政策として、電柱をなくす「無電柱化の推進」に、予算を上乗せした上で条例の制定を目指すなど整備を加速化させると発表した。

 小池知事「富士山が電線で切られないように『どこから見ても富士山きれいね』と。“電線病”を早く治したい」

 東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、東京は待ったなしの状態だが、こうした電柱の問題は日本全体の課題だ。

 そこで、国としても「電柱のない街づくり」を目指し、ある会議を開いた。国土交通省は先月26日、電柱をなくすため、地中に電線を埋める技術などについて話し合う有識者委員会を開いた。今後、どういった地域の道路に優先的に取り組むべきか話し合うとしている。


■海外では当たり前の「電線地中化」

 実は、海外では既に「電線を地中に埋める」ことが当たり前となっている都市がある。フランス・パリの街並みを見ると、エッフェル塔を遮るような電柱や電線は1本も見当たらない。また、ロンドンも街灯はあるが、電柱などはなく、電線は全て地中に埋められている。

 電線の地中化は、イギリス・ロンドン、パリ、中国・香港は100%。台湾・台北では95%となっている。


■日本国内の電柱、約3550万本

 しかし、日本の電柱がない地域の割合は東京23区で7%、大阪市は5%にとどまっている。戦後、いち早く復興するために、工事の期間が短く、費用も安くて済む電柱が次々にたてられたこともあり、日本国内の電柱の数は現在、約3550万本あり、今も毎年7万本のペースで増え続けている。


■電柱をなくす3つの目的

 国は3つの目的から、電柱をなくす街づくりを進めている。

 1つ目は「美しい景観を保つ」こと。蔵造りの街並みが広がり、「小江戸」と呼ばれる埼玉県川越市。1988年に撮影された写真には電柱や電線が写っているが、観光客を呼び込むため、電線を地中化した。

 その結果、電柱があった当時と現在を比べると、川越市を訪れる観光客が約4倍増えたという。今では外国人の観光客も増え、地域の活性化につながっているという。

 2つ目は、道路が狭い住宅街などで、安全に通行できる「空間を確保する」こと。新潟県見附市が開発中の街のイメージ図を見ると、電柱がなく歩道が広い分、ゆったりと安全に歩けるようになっている。これで歩く機会が増え、健康につながるのではないかとの狙いがあるという。

 3つ目は「防災性を向上させる」ため。東日本大震災の時、約5万6000本の電柱が津波などで倒れ、道路を塞いでしまった。負傷者の搬送や支援物資の輸送の妨げにもなってしまうため、現在、国が管理する国道の緊急輸送道路については、新たな電柱をたてることを禁止している。


■1キロあたり5億円超

 なぜ、電柱の地中化が進まないのか。一番の理由は「高コスト」。これまでの一般的な地中化の工事では、電力も通信もそれぞれ電線が傷つかないよう、地中にパイプを埋めて、その中に電線を入れる必要があった。この工事費用は、1キロメートルあたり約5億3000万円かかる。

 そこで、コストを抑えた技術開発が進んでいる。電線自体を覆う素材を厚くするなど強度を高めることで、パイプがなくても直接、地中に埋めることができるようになり、費用は約2億6000万円で済むという。

 国土交通省は今年3月末までに、安全面の調査を行うとしていて、こうした努力を続けることが大事だ。