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ノーベル賞大隅氏が抱く「強い危機感」とは

2016年12月16日 14:20
ノーベル賞大隅氏が抱く「強い危機感」とは

 今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学・大隅良典栄誉教授。自然科学の分野で日本人の受賞は、3年連続となる。しかし、大隅さんは今の日本の研究環境に強い危機感を抱いていた。

 大隅さんの受賞理由は、細胞のリサイクル機能「オートファジー」の仕組みを解明したこと。これは基本原理の解明を進める「基礎研究」と呼ばれる分野だ。

 「基礎科学の重要性をもう一度強調しておきたいと思います」「基礎研究の大事さというのは、私を選んでいただいたことが全てだろうと」―成果が出るまで時間がかかるという「基礎研究」。

 10年前に比べると、研究費などの原資となる国立大学への運営費交付金が10%以上減少している上、いつ成果が出るかわからない「基礎研究」よりも、特定の成果が見込まれる「応用研究」に予算が割り振られる傾向にあるという。

 こうした中、危機感を抱く大隅さんは、約3か月前、イギリス・ケンブリッジにある国立研究所「MRC分子生物学研究所」で、基礎研究を行う理想の環境を見いだしていた。

 この研究所はノーベル賞の受賞者をこれまでに14人輩出し、「ノーベル賞の製造工場」とも呼ばれ、大隅さんはここで講演を行っていて、大隅さんを講師として招いたアン・バートロッティ氏は「(研究所を見学した)大隅さんは『感銘を受けた』と話した」と話す。

 この研究所には、実験に使う器材や試薬などの準備を行う専門スタッフが常駐。研究者は自分の研究に集中できる上、ここに入る研究室同士で情報を共有することも可能だという。

 日本には、こうしたサポート体制のある研究所は、ほとんどない。アン・バートロッティ氏は「研究を行うにあたって、時間やお金の無駄を削ることができる」と語る。

 授賞式から一夜明けた会見で、大隅さんはノーベル賞の賞金約1億円を「研究者の裾野が広がるようなシステム作りに使いたい。若い人が自由に研究できるお金もあったらいいし」と語った。

 日本が今後も優秀な研究者を輩出し続けるためには、国の予算だけに頼るのではなく、企業なども含めた社会全体で、こうした研究システムを支えていく必要があると言える。