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「無い。だから創る」ファクトリエの挑戦2

2016年11月24日 16:15
「無い。だから創る」ファクトリエの挑戦2

 ファクトリエ代表・山田敏夫氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「きっかけはフランス留学中にアルバイト先で言われた一言。日本って本当のブランドがないよね」。日本ならではの“モノづくり”にこだわるその理由を語る。


■「世界ブランドを俺が作る」

――山田さんは熊本の老舗の婦人服店のお生まれで、その後にフランスに留学されたんですよね。フランスに到着された日に盗難に遭われたという話をうかがったんですけども、それで運命的な出会いをするアルバイトを始めたと。

 着いた日に地下鉄でスリに遭いまして、一文無しになったんでアルバイトを探さなきゃいけないと。その中で何十個も渡り歩いて、一個だけ縁があったのはグッチのパリ店で、そこでアルバイトをさせていただく機会を得ました。最初は地下のストック整理から始めて、免税の手続きとかいろんなことをやってったんですけど、この言葉を(グッチの)彼らから飲んでた時に言われたんですよね。

 それは、フランスにあるエルメスにしても、ヴィトンにしても、イタリアのグッチにしても、全部もともと工房から生まれたと。日本っていうのはその当時、ブランディング、マーケティングって言葉が横行していて、肝心のモノづくりは全部中国で行っていると。じゃあ、なんで日本はせっかくモノづくりの文化があるのに、そこからブランドを作っていかないんだって言われてですね。

 そのとき私は反発して、いろんなブランドの名前を言ったんですけど、じゃあそれが全部メード・イン・ジャパンかって言われてしまって。見てみると全部メード・イン・チャイナでした。なので、当時は20歳でしたので、若気の至りで「じゃあ日本から世界ブランドを俺が作る」と言ったのが最初のきっかけでしたね。


■素晴らしいものが日本にはある

――山田さんから見てグッチの考え方、販売戦略というのはどういったものでしたか。

 彼らっていうのは、自分たちのブランドとも思ってないんですよね。モノづくりのバッグ屋としか思ってないです。彼らはそれでいいと。だからこそ100年、200年残っているんだっていう思いがあって。

 (日本における)今までのブランドマーケティングっていうのはアメリカからきたものです。アメリカはどちらかというと歴史がなかったので、そういう考え方が必要だったんですが、日本ではせっかく歴史があったのにそれを上書きしてしまったと。

 染めにしても、織りにしても、素晴らしいものがせっかく日本にはある。先ほどのネクタイも、1日に3本しかできないっていう旧式の織り機を使って作る京都の“丹後ちりめん”です。それをじゃあどうやったら残していけるのかっていうのを考え始めました。


■“モノづくり”へのリスペクト

――こういった言葉からも衝撃を受けられたと思うんですが、一番「こういったところ学んだなあ」と思うところは、アルバイトをしていて何かありましたか?

 やっぱりモノづくりへのリスペクトにはびっくりしましたね。今はそんなことないと思いますけど、僕らの時は、彼らは短パンで入ってくる観光客に向かってドアマンに「入れるな」って話をしてましたし。

 日本でいうと、小売り、もしくはお客様が神様で、そこに近い人がどんどん利益を取っていくっていう形なんですよね。なので、工場からするとモノづくりがどうやったら尊重されて、すごくリスペクトされるようになるかなっていうのを考えるきっかけを彼らから学びました。


■「お客様は神様」じゃない

――日本で生まれて育って、特に婦人服店でお生まれになったということなので、そういったグッチの店の方の態度とかに、はじめは違和感とかなかったんですか。

 すごく感じましたね。私は熊本の小売りの息子で店の上に家があったんで、本当に店番しながら親に「お客様は神様だ」って言われ続けました。なので、彼らが横暴で、お客さんに向かって何を言ってるんだと最初は思うんですよね。でも、工房を見せてもらってモノづくりというのを知ると、別にどっちが上っていうのは実はなくて、どちらも一緒なんですよね。

 どちらも一緒っていう考え方がすごく大切で、どっちかが上になってそれがいびつになってしまうと、モノづくりが…要は、この20年で50%だった国産比率が3%を切るぐらいに激減しているというのは異様なことで、それをもう1回変えるには、「モノづくりっていうのはすごく素晴らしいけども、高すぎて買えない」ではなく、シンプルな流通でお客さんは半額ぐらいで買えて、工場もちゃんと適正な利益があって長く続いていくっていう仕組みをやっぱり作んなきゃいけないなと思ってますね。