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日本の「スポーツ支援外交」 舞台裏に密着

2016年10月24日 11:17
日本の「スポーツ支援外交」 舞台裏に密着

 政府は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、開発途上国を中心に100か国以上を対象としたスポーツ支援外交を展開している。スポーツを通じた戦略的外交を目指す、その舞台裏に、政治部の矢岡亮一郎記者が密着した。

 東ヨーロッパに位置するボスニア・ヘルツェゴビナ。首都サラエボには、20万人が命を落とした紛争の爪痕が、街の至るところに残されている。

 サラエボ市内中心部にある、かつてサッカー場だった場所。あまりに犠牲者が多いため、お墓を作る土地が足りず、この場所も墓地となった。

 ボシュニャク系、セルビア系、クロアチア系の3つの民族が争いを繰り広げたボスニア紛争。1992年から3年半以上続いた。

 紛争終結から20年あまりたったいまも住民が民族ごとに分かれて暮らす街、モスタルに、今月9日、サッカー場がオープンした。ピッチには地元出身でサッカー日本代表の元監督イビチャ・オシムさんの姿も。

 そしてこの日に合わせ、現地に降り立ったのは、岸信夫外務副大臣。実はこのサッカー場、民族融和のシンボルにしようと、日本政府が改修を手がけたのだ。日本のNPO法人「Little Bridge」によるサッカーアカデミーも開校。政府と民間が一体となった民族融和のプロジェクトがスタートした。

 岸外務副大臣「サッカーを通じて、子供たちが互いに壁をつくることなく打ち解けて、将来、国づくりにリーダーシップをとってもらえる存在になってもらえればと思います」

 安倍政権が進める「スポーツ外交」推進事業は、世界100か国・1000万人以上を対象に、備品の供与やコーチの派遣、選手の招へいなど、支援を展開している。親日家を増やし、日本の存在感を高める外交戦略。今週、この取り組みが一つの成果を挙げた。

 国際体操連盟の会長選挙で、日本人の渡辺守成氏が当選。オリンピックの競技団体トップのポスト獲得は、日本として22年ぶりの快挙で、情報収集力や発言力の強化に直結する。

 岸外務副大臣「スポーツはその一つのツールだと思います。スポーツには大きな力があります。他の分野でできないことが、スポーツを通じて可能になることもあります」

 スポーツの力が外交関係を一気に改善させたケースも。ロサンゼルス五輪・柔道金メダリストの山下泰裕さんと、柔道愛好家としても知られるロシアのプーチン大統領。山下さんは、2014年に開かれた柔道の世界大会での大統領とのあるやりとりを明かした。

 山下泰裕さん「いつも笑顔で私に話しかけるのに、この時だけはすごいおっかない、戦いに臨む勝負師のような顔になって」

 2014年に起きたウクライナ問題で、日本がロシアに科した制裁をめぐって、安倍首相とプーチン大統領の間には、微妙な距離が生まれていた。

 山下泰裕「(プーチン氏は)『安倍さんが言っていることとやっていることが違うんじゃないか』と」

 山下さんは大統領に、安倍首相には依然、北方領土問題解決への強い意欲があると伝えた。この10日後の9月10日、安倍首相に近い森元首相との会談が実現。さらに11日後の9月21日、安倍首相の誕生日には、本人に電話をかけ、祝福した。日露関係が再び動き始めたのだ。

 山下泰裕さん「柔道がお互いの誤解を解くうえで、ほんのわずかでも役に立ったなら、それはありがたいと思っています。ただ、そういう役回りはもうしたくないです」

 スポーツを通じた戦略的な外交で、いかに平和な世界の構築につなげられるのか。日本外交の力が問われている。