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極東で日本の新ビジネス 日露双方の思惑

2016年10月14日 15:40
極東で日本の新ビジネス 日露双方の思惑

 ロシアのプーチン大統領の訪日を12月に控え、日本では北方領土問題の進展に期待が高まっている。そんな中、ロシアの極東地域では日本の技術を生かした新たなビジネスが注目されている。そこには、双方の思惑があった。


■極東投資を呼びかけるロシア

 ロシア極東のウラジオストクで先月に開かれた政府主催の経済フォーラムで、プーチン大統領は「極東の運命とロシアの運命を分けることはできない。極東開発の新たな段階が始まった」と述べ、極東地域の開発に力を入れていることを強調。フォーラムに参加した各国の首脳や企業に対し、極東への投資を呼びかけた。

 特に期待を寄せられているのが、日本だ。

 ロシアの首都・モスクワからウラジオストクへは6000キロ以上。極東地域は厳しい自然環境に加え、インフラ開発の遅れなどが重なり、この25年で人口が180万人減少するなど衰退が深刻だ。

 一方、日本からは飛行機で約3時間。アジアに近い「地の利」を生かし、投資を呼び込みたいとの狙いがある。


■ロシアで高評価の日本の技術

 ロシアが求める投資とは、どのようなものなのか。ロシアで高く評価されている日本の会社があると聞き、極東の中心都市・ハバロフスクを訪ねた。

 ロシアの会社と合弁で温室を使った野菜の栽培を手がけているハウスを訪問。ここでは農薬を極力使用せず、安全性にこだわった野菜作りを行っているという。

 日本と違い地震がないため、天井が高いガラス製のハウスが採用されている。栽培されているトマトも背丈が高く成長する品種になっている。冬の間でも新鮮な野菜を安定供給できる温室栽培への投資は「生活水準を向上させる」として歓迎されている。

 温室栽培を手がけているJGCエバーグリーン・五十嵐知之社長「ハバロフスクの多くのお客様に大変好評をいただいていて、弊社の直売所でも列ができるほどです」


■中国の存在こそが

 さらに、日本からの投資を歓迎する理由がもう一つあるという。直売所で商品を買う人に話を聞くと、ある国の名前がたびたび引き合いに出された。

 「(Qこのトマトはどうですか?)濃厚な味がして、中国産とは全く違います」

 「中国産よりおいしいです」

 ハバロフスクでは、隣接する中国産の野菜が多く流通している。しかし、「大量の農薬が使われているのではないか」など安全性への不安があるという。

 専門家は、中国の存在こそが日本の投資を歓迎する理由だと指摘する。

 ロシア科学アカデミー極東研究所・オストロフスキー教授「遠い将来(ロシアと中国で)領土問題が起きるかもしれない。(極東の)発展が遅れると、その恐れがあるかもしれない」

 極東の人口620万人に対し、隣接する中国の黒竜江省だけでも人口は3800万人。中国の発展に極東がのみ込まれてしまう懸念が強まっている。

 「成長著しい中国に接近する一方、中国一辺倒のリスクを避けるため日本からの投資を呼び込みたい」―ロシアには、そうした思惑があるという。


■誰もがもうかるところでは…

 一方、日本も北方領土問題解決のため、経済協力を通した日露関係の強化を狙っている。経済協力という点では両者の思惑は一致していて、プーチン大統領も「経済協力という日本の提案は(領土問題解決への)唯一の正しい道だ」と、安倍首相が示した協力計画を高く評価している。

 プーチン大統領の訪日を12月に控え、日本では領土問題の進展が期待されている。しかし、極東への投資はこれまで失敗が多く、ある日本の大手商社の幹部は「誰もが手を出して、もうかるところではない」と指摘する。

 今後、官民の連携を図り、経済協力をどこまで具体化できるのか。安倍首相の手腕が問われている。