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ベジタリア小池氏「科学で変える農業」2

2016年9月29日 18:33
ベジタリア小池氏「科学で変える農業」2

 ベジタリア代表取締役社長・小池聡氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。2つ目のキーワードは「農地を借りて畑を耕し、ビニールハウスも建てた。しかし、現実は甘くない…病虫や天候との戦いが続いた」。農業を始めて失敗、そこから学んだこととは?


■イタリア野菜を作るもはじめは全滅

――苦労がたくさんあったと思うのですが、最初はどんな野菜を栽培されたのでしょうか。

 最初は、本当に家庭菜園のように、小さく始めたんですけど、私、アメリカにいたときにイタリアンが好きだったので、イタリア料理を習ったときがありまして、シェフでもイタリアンのシェフとか、結構、友達がいたんですね。

 イタリアで修業したシェフほど、食材にこだわりイタリア野菜も輸入している人たちもいて、なんで日本では作ってないのだろうと思い、農家の方に聞いてみました。すると、作り方がわからないとか、そんなのは知らないとか、JAが引き取ってくれないということでした。つまり、あまり努力もせずに、作っていないようでしたので、自分で作ってみようと思い、最初は、イタリア野菜を作ってみました。

――結果はどうでした?

 最初は全滅しました。ほぼ全滅ですね。だいたい、素人は無農薬で有機で作ろうというようなことを考えるんです。ご多分に漏れず、私もそのパターンでやってみて、色々自分で調べて、酢がいいというので木酢をまいてみたり、コンパニオンプランツといってトマトのそばにバジルを植えるとトマトの害虫も来ないとか、色んなことを、聞きかじってやってみました。

 しかし、そんな甘いものではなく、途中まではうまくいっていたのですが、夏場の蒸し蒸ししているときに、ちょっと病気や虫が出ているのはわかっていたのですが、油断していたら、急激に広まってハウスの中も露地もやられてしまいました。


■「農薬を使わないからできない」で終わってしまう

――そのあと、どう解決されたんですか。

 それで、たまたま東大のエグゼクティブ・マネジメント・プログラムというところに植物病理学研究室の主任教授・難波先生という方がいまして、いろいろご相談したら、これはトマトの「灰色カビ病」だということでした。これはこの温度、この湿度、この葉面濡れなどで発病するんだと、すべて病気のメカニズムはわかっているんですね。

 しかし農家の熟練の方に聞いても「こんなの農薬を使わないからできない」で終わってしまいます。しかし、病気にしても、植物の生育にしても、そのメカニズムというものは、最新の植物科学というもので、かなり解明されているということが分かりました。

――その結果、どちらの考えに従ったのでしょうか?

 病気になるメカニズムが、温度、湿度、葉面濡れ、土壌水分、日射量など、色々な要因があるので、まずそれを計測してみようと考え、いろいろ探して、フィールドサーバーという農業用のセンサーを見つけてきました。それを導入し、先生に教わった病気になりにくい環境に制御していったところ、だんだん腕も上げていき、被害が少なくなっていきました。

――ということは結果的に農薬を使わずにということですか?

 そうですね。途中、何度も挫折しようと思ったのですが、ちょっと意地でもということで、使わずにいきました。そのかわり、病気も虫も、完璧に防ぐことはできないのでやられました。ただ全然、農薬反対、化学肥料反対という立場ではないので、私の意地でそうやっていたということです。


■「トマトは水を絞ると甘くなる」ことに明確に答えられない?

――しかし、経験豊富な農家の方に言われると、そっちの考えに思わずこう傾いてしまうかなと思うんですけれども、そこでも揺るがなかったんですね。

 そうですね。例えば、トマトは水を絞ると甘くなると、絞り方のノウハウなどを教わるわけです。しかし、その方に「どうして水を絞ると甘くなるのですか」と聞いても明確には答えられないんです。ところが、大学の先生とかに聞くと理路整然と色々なそういうメカニズムを説明してくれます。

 うまくできているということは、必ず科学的根拠があるはずだと思ったんですね。そのうまくできている理由を明確に説明できない人に教わるよりも、最新の植物科学に教わった方が、もしかしたら早いんじゃないかなというふうに思いました。

 さらに、経験あるいは匠の技ということも、今であればそういうビックデータ解析をして人工知能を利用すれば、みんなが使えるようにしていくということもできるんじゃないかなということで、今まで、ITの世界にいましたので、このチャレンジをしてみようというふうに思いました。