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「生活困窮者自立支援制度」って?

2016年9月23日 17:19
「生活困窮者自立支援制度」って?

 中央大学法科大学院・野村修也教授が解説する「会議のミカタ」。23日のテーマは「暮らしに困っている人の自立支援」。

 私たちは誰でも失業や離婚、病気などが原因で生活が苦しくなる可能性がある。そんな時に役に立つのが「生活保護制度」だが、これはあくまでも最後の砦なので、相談に行っても要件を満たさず受給を認めらない人が年間約40万人いると推計される。

 また、仮に受給できても生活保護は経済的支援にとどまるため、仕事や子育てなど様々な課題を乗り越えて自立することをサポートしてもらえるわけではない。

 こうした自立支援の必要性に着目して去年4月に設けられたのが「生活困窮者自立支援制度」だ。今回はこの制度に関する会議を取り上げる。

 今月16日、「生活困窮者自立支援制度」の自治体の担当者が集まる全国会議が都内で開かれた。この制度がスタートして1年半、各自治体の先進的な取り組みが紹介されたり、課題などが話し合われたりした。


――具体的にはどのような支援が行われているのか。

 福祉事務所がある全国901の自治体には、相談窓口の設置が義務づけられている。

 自治体ごとの判断で行える任意の支援メニューには「就職のために必要な訓練や仕事探しの支援を行う『就労支援』」「住まいのない人に緊急措置として一時的に衣食住を提供する」「家計管理の指導」「子どもの学習支援」などがある。

 個別支援プラン専門の支援員は、困窮者の実情に合った個別の支援プランを作成。関係する機関につなぐことになっている。いずれも自治体が積極的に自立に向けた支援を行うところが特徴だ。

 具体例を紹介する。職場のトラブルをきっかけに働く意欲を失い、解雇されてしまった26歳の男性・Aさん。家賃が払えずアパートを立ち退かなければならない状態にあったので、まず「住居確保給付金」のプランが示された。これは就職に向けた活動をすることを条件に一定期間、家賃相当額を支給するもの。

 次に、仕事の意欲を少しずつ取り戻せるようにするために、高齢者施設への「中間的就労」が提案された。「中間的就労」とは、短時間の軽作業など本人が可能な範囲で働きながら、ゆくゆくは本格的な就労を目指すものだ。

 この結果、Aさんは意欲を取り戻し、ヘルパー資格を取るべく準備を進めるなど生活を立て直したという。


――制度の課題はあるのか。

 この制度自体があまり知られていないこともあり、相談件数が少ない。国が目安としている件数は人口10万人あたり月に22件だが、今年4月から7月までの相談件数は月に14.7件。国の目安の7割弱にとどまっている。

 こうした中、注目されているのが、自立支援策の一つ「子どもの学習支援」の意外な効果だ。三重県桑名市のケースでは、相談窓口に置かれた「学習支援コーディネーター」が「子ども」の学習ニーズを聞き取り、ボランティアで勉強を教える「学習支援者」とマッチングさせている。

 桑名市によると、「学習支援を通してその家庭とのつながりができ、家庭支援が進む」という効果があるという。親からの相談がなくとも子どもを通して家庭の問題が浮き彫りになるわけだ。


――今後は何が求められてくるのか。

 今回のポイントは「縦割りを乗り越えよう」。自立支援は行政の総合力が必要だ。各自治体は福祉・雇用・住宅・教育といった部局ごとの縦割り行政を見直し、局間の横の連携をとって総合的なサポートを目指す必要がある。

 また、各人の困りごとは様々で、行政だけでは解決できない問題も少なくない。そのため、官と民との間の縦割りも取り払い、協力体制を整えていくことも必要となる。