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タイのミャンマー人労働者 劣悪環境のワケ

2016年7月1日 14:33
タイのミャンマー人労働者 劣悪環境のワケ

 ミャンマーの事実上の最高指導者、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問が先週、隣国・タイでミャンマー人労働者たちと対面した。なぜ、タイでミャンマー人労働者たちと会ったのか、それにはある理由があった。


■タイの「リトル・ミャンマー」
 先月23日、スー・チー氏の姿はタイの首都・バンコクにあった。スー・チー氏はタイに到着後、真っ先に向かったのは、ミャンマー人労働者の集会会場。盛り上がるミャンマー人労働者たちは、スー・チー氏のプラカードを持ち、笑顔で歓迎する。

 しかし、明るい表情とは裏腹に、彼らを取り巻く状況は非常に厳しい。

 タイ中部・バンコクから車で約1時間のサムットサコン。ここには多くのミャンマー人労働者らが暮らしていて、「リトル・ミャンマー」と呼ばれている。

 タイのミャンマー人労働者は400万人に上るとされ、外国人労働者の半数を超える。国連開発計画によると、ミャンマーは東南アジアで最も貧困層が多い国で、国内では安定した収入を得ることが困難な状況なため、タイは職を求めるミャンマー人の受け皿になっている。

 その多くは言語や法律知識の不足から不当な扱いを受けることが多く、低賃金・長時間労働など劣悪な環境に置かれている。兄と一緒に船の乗組員をしている男性は、1か月間、船の上で働いて得られる収入は1万円ほど。これはタイ人の平均月収の4分の1以下だ。

■ミャンマー人労働者たちの“駆け込み寺”
 このように様々な問題を抱える労働者たちの“駆け込み寺”がある。ここでは就業のためタイ語の教育を行ったり、不当な扱いを受けた労働者の相談を受け付けたりしている。

 この日も塗装工として働くミャンマー人の男女が相談に訪れていた。

 ミャンマー人労働者「雇い主から給料がもらえません。仕事をしたけど、お金を払ってくれません。タイでの生活は良いものではありません。タイにはいたくありませんが、お金がないので仕方ありません」

 労働者権利促進財団のソンポン・サケオ会長「一番多い相談は雇い主が給料を払わないことです。過酷な労働でケガをしたり病気になったり。また、性的虐待などもあります」

 こうした状況を受けてスー・チー氏は、多くのミャンマー人労働者の前で、労働環境の改善に前向きに取り組むことを約束した。

 スー・チー氏「私はミャンマーの人々が与えられるべき権利を得られるよう、全力を尽くします」


■祖国で仕事に就きたい「83%」
 スー・チー氏に対して期待することを市場で働く人たちに聞いてみると、みな祖国への思いを口にする。

 「ミャンマーをもっと発展した国にしてほしいです」
 「ミャンマーにもっと仕事できる場をつくってほしいです。働ける場があるなら、ミャンマーで働きたいです」

 タイの研究機関によると、83%ものミャンマー人労働者が祖国で仕事に就きたいと考えているという。

 スー・チー氏は労働者と面会した翌日、タイのプラユット暫定首相と会談し、タイで働くミャンマー人の待遇を改善することで一致。覚書を交わした。

 また、スー・チー氏は「ミャンマー国民は働く場を欲しがり、求めています。ミャンマーにとって、国内に雇用を創出することは非常に重要なことです」との認識を示した。

 この合意で本当にタイでの労働者の権利や環境が改善されるのか、ミャンマー国内を安定させ、雇用を促進した上で故郷に帰りたい人々が安心して帰ることのできる環境をつくることができるのか、スー・チー氏の手腕が問われる。