×

格差に懸念も…“デジタル教科書”導入へ

2016年6月29日 19:54
格差に懸念も…“デジタル教科書”導入へ

 “紙の教科書”の説明に加えて、動画や音声などを見たり聞いたりできる「デジタル教科書」。文科省では2020年度から、全国でデジタル教科書の導入を目指す方針を明らかにしたが、どのようなメリットや課題があるのだろうか。

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。29日のテーマは「授業が変わる?」。日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。


■デジタル教科書のメリット

 たとえば、月の満ち欠けを学ぶページでは、ボタンを押したりすることで、新月から三日月、満月へと変化していく様子を動画で見ることができる。また、算数であれば、“同じ形の三角形をどう書くか”という問題では、分度器を使って角度をはかり、三角形を描く様子を動画で見ることもできる。さらに、“立方体の展開図はどれか”という問題では、画面上でそれぞれの展開図を組み立てることができるようになっている。立体など、紙の上だけではわかりにくいものはぐっとわかりやすくなる。

 こうしたデジタル教科書は、すでに一部の学校で使われているが、文科省では2020年度から、全国でデジタル教科書の導入を目指す方針を明らかにした。いずれは生徒1人1人がデジタル教科書を使って授業が受けられるようにしたいという方針だ。


■端末代などは地方自治体が負担

 ただ、これまで教科書は無償だったが、デジタル教科書だと端末代などはどうなるのだろうか。文科省は、デジタル教科書は「地方自治体などが整備することが基本」としている。そうなると、自治体に財政力があれば、端末などにかかるお金を予算でまかなえても、自治体に財政力がなければ保護者が費用を負担せざるをえない可能性がある。つまり、自治体によって格差が生まれてしまうことも考えられる。


■子供の健康面への影響は―

 さらに費用以外にも課題がある。ITを活用した教育に詳しい目白大学・原克彦教授は、「家ではスマートフォン、学校でもデジタル教科書となると、朝から夜までデジタル機器を使うことになり、視力の低下など健康面が心配。さらには、例えば理科の実験などこれまでは実際に子供たちが手で触れたり、においをかいだりして学んでいたことをデジタル教科書の動画で済ませてしまう先生も出てくるのでは」と話す。

 文科省は、実際にデジタル教科書を使っている学校への調査では、授業の前後で子どもたちの体調などに大きな変化はなく、これからデジタル教科書を活用した教師の指導力の向上も図っていく、としているが、より実態に即した対応が求められることになりそうだ。


■9割以上の子供が「楽しく学習できた」

 海外では、デジタル教科書はどのように使われているのだろうか。デジタル教科書の先進国と言われるアメリカでは2000年頃から教科書のデジタル化が始まっており、ある教科書会社では毎週新たなデータを送って教科書の内容を更新しているという。また、韓国では2013年からデジタル教科書が導入され、今では小中学校の約3割にあたる約2500校で使われているという。

 海外では教育のデジタル化がずいぶん進んでいるという印象だ。今回のポイントは「子どもたちの意欲を大切に」。文科省が、デジタル教科書を使った小中学生にアンケートを行ったところ9割以上の子供たちが「楽しく学習できた」、7割以上が「もっと多くの授業でデジタル教科書を使った勉強をしたい」と答えたという。

 デジタル教科書は、こうした子供たちの意欲を引き出すのにも役立つ。費用の問題などを、大人が工夫して、学びの環境を整えていきたいものだ。