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オバマ氏訪問「核なき世界」の理想と現実

2016年5月30日 19:42
オバマ氏訪問「核なき世界」の理想と現実

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。30日のテーマは「オバマ大統領が残した言葉」。日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。

■アメリカ側にあった懸念

 27日、アメリカのオバマ大統領が広島を訪れた。印象的だったのは、オバマ大統領が被爆者・森さんの肩を抱き寄せたシーン。その時のことをある外務省幹部に聞いたところ、当初、アメリカ側は被爆者から厳しい言葉をかけられるかもしれないと心配していたという。日本の外務省は「日本人はそんなことはないですよ」と説明し、あのシーンにつながったという。

■原爆資料館でのメッセージ

 そのオバマ大統領だが、演説の前に訪れた原爆資料館では、こんなメッセージを記帳した。

 「私たちは戦争の苦しみを経験しました。共に、平和を広め、核兵器のない世界を追求する勇気を持ちましょう」

 一方、安倍首相が残したメッセージは―

 「原爆によって犠牲となったすべての方々に哀悼の誠を捧げます。恒久平和を祈り、核兵器のない世界の実現に全力を尽くします」

■最初のページはヨハネ・パウロ2世

 この原爆資料館には、これまでも世界の要人が平和へのメッセージを残してきた。その芳名録の最初のページに残されているのは、1981年に訪れたローマ法王、ヨハネ・パウロ2世の聖書を引用した次のメッセージだ。

 「『私の思いは平和の思いであって、苦痛の思いではない』と神はいわれる」

 また、旧ソ連の大統領だったゴルバチョフ氏のメッセージもある。1992年、ソ連が崩壊した後、資料館を訪れ、こう記している。

 「歳月がヒロシマの悲劇の痛みを和らげることはできませんでした。このことは決して繰り返してはなりません。私たちは原子爆弾の犠牲者のことを決して忘れてはなりません」

■「核なき世界」理想と現実

 今回のオバマ大統領も「決して忘れてはならない」と演説で言っていた。ただ、オバマ大統領の演説について、ある外務省幹部は「核兵器廃絶については抑え気味、新しいことはなかった」と、また別の幹部は「核兵器のない世界を実現するのは難しいというオバマ大統領自身の正直な気持ちが吐露されていた」と話す。

 そこには、アメリカにとっても、日本にとっても、将来的には核兵器のない世界を実現したいという理想はあるものの、うまくいっていない現実がある。実際、アメリカとロシアの核軍縮交渉は大きくは進んでいない、日本も同盟関係にあるアメリカの「核の傘」、つまりアメリカの核兵器を後ろ盾に日本の安全を守る立場だ。そういう背景があるだけに、核廃絶に向けたトーンが抑え気味だという。理想を唱えるだけでは難しい現実もあるということだろうか。

■「安倍首相にとっては痛しかゆし」

 実際、安倍首相の周辺は、今回の演説は安倍首相にとって、「痛しかゆし」なんだと話している。被爆国の立場と核に守ってもらう立場というある種、矛盾したなかで、「安倍首相個人としては、『核兵器の犠牲者を追悼する機会』だと歓迎する一方で、国を守る政治リーダーとしては、『核兵器のない世界』を額面通りに受け止め、外交や政策にそのまま反映させるわけにはいかないと考えている」と、指摘したわけだ。ただ、オバマ大統領は今回、こうも言っている。

■「考えるきっかけ」にする

 「国家や同盟は自らを防衛する手段を持つ必要があります。しかし、核を保有する国々は恐怖の論理から逃れ、核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければなりません」「私たちは学ぶ事ができます。選択することができます」

 今回のポイントは「考えるきっかけ」。日米だけで、すぐに核兵器をなくすことは、できないかもしれない。しかし、今回の演説を各国が「考えるきっかけ」にして、子供たちに平和な世の中を伝えられるか、今の時代を生きている私たちが問われている。