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救えなかった少女の命…「奪還された町」

2016年2月11日 22:16
救えなかった少女の命…「奪還された町」

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。11日は「奪還された町」をテーマに、諏訪中央病院・鎌田實名誉院長が解説する。


■「奪還された町」を臨む山へ
 クルド自治政府は、過激派組織「イスラム国」に支配されていたイラク北部・シンジャルを去年11月、クルド人部隊が奪還したと発表した。シンジャルは「イスラム国」が首都としているラッカとイラクでの拠点としているモスルを結ぶ要衝の町。シンジャルは、2014年8月「イスラム国」に襲撃され、これまで制圧されていた。

 鎌田さん「私は10年ほど前から、イラクなどで難民の子どもなどを支援する活動を行っていますが、『イスラム国』からの迫害を受け、シンジャルから避難してきた子どもも多くいます。今回、特別にクルド自治政府の協力を得て、『イスラム国』から奪還したというシンジャルを臨む、シンジャル山に行ってきました」

 イラク北部のクルド人自治区の都市・アルビルからシンジャル山へ。山へ向かう途中の村には「イスラム国」によって破壊された建物がそのままの状態で残っていた。車で約6時間、シンジャル山に到着した。

 鎌田さん「『イスラム国』が制圧していた所だから、結構、途中の町は荒らされていますよね」


■シンジャルに住んでいた家族は…
 今回、鎌田さんが代表を務めるNPO法人は、クルド自治政府からの意向を受け、シンジャル山にとどまっている避難民におむつやミルクなどを支給した。避難所でシンジャルの町に住んでいたという家族に話を聞いた。

 鎌田さん「いつ自分の村(シンジャル)に帰るつもりでいますか?」

 父親「町は『イスラム国』から2キロしか離れていないから、(シンジャルの町は)まだ安全とは言い切れない。シンジャル山はクルド人部隊のおかげで治安がよくなった。町も状況がよくなったら帰りたいです」


■「骨のがん」と闘う少女
 同じようにシンジャルへ帰ることを望んでいる女の子を鎌田さんは訪ねた。「ユーイング肉腫」という骨のがんと闘いながら避難生活を送っている14歳のナブラスさん。以前から、鎌田さんが主治医のいる病院へ抗がん剤などを送り、支援している女の子だ。

 鎌田さん「ナブラス、もう1回シンジャルに行きたいか?」

 ナブラスさん「うん」

 鎌田さん「シンジャルに行ったら何する?」

 ナブラスさん「学校に行きたい」

 約1年前、鎌田さんが会いに行った時には笑顔を見せていたナブラスさんだったが、がんの進行が早く、昨年末の段階では、すでに厳しい状況となっていた。

 鎌田さん「肺にも多発してるんだ。横隔膜の下も…腫瘍がかなり大きくなっちゃって、ずっと大きな腫瘍になってるんだよね。厳しいですね…」

 現地の主治医も手の施しようがない状況だという。この事実をお父さんにも伝える。

 鎌田さん「主治医の先生も僕の意見と同じでやる方法がないと考えています。彼女は少しよくなったらシンジャルへ行きたい、学校へ行きたい、と思っているので、家族みんなが同じ夢を…持ってあげることが大事だと思います」

 ナブラスさんの父親「治療法がないことはわかりました。彼女にたくさんの愛情を与えるつもりです。後は神様に任せるしかありません」

 鎌田さん「実はこの2週間後、ナブラスは亡くなりました。シンジャルが奪還され、もう少しでふるさとに帰ることができたかもしれなかったんです。もう少し病気に早く気づいていれば…もう少し早く腫瘍を取り切れていればと思うと、本当に悔しいです」


【every.ポイント「小さな命を支え続ける」】

 鎌田さん「救えるかもしれなかった命がまた一つ失われてしまいました。医療技術は確実に進歩していますが、それを使うためには、“絶対に”平和が必要なんです。「イスラム国」など平和を脅かす組織に負けず、平和な世の中で小さな命をできる限り救っていくためにも、私は子どもたちへの支援を今後も続けていく覚悟です」

 VTRで紹介したナブラスさんなどイラクやシリアの子どもたちが描いた絵の展示会が12日から東京・日比谷で開かれる。

●「いのちの花展」
 ギャラリー日比谷
 2月12日~17日
 午前11時~午後7時(最終日は午後5時まで)