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若者動く、台湾政権交代“中国との距離感”

2016年1月29日 18:59
若者動く、台湾政権交代“中国との距離感”

 台湾では1月、4年に一度の総統選挙が行われ、8年ぶりの政権交代が決まった。中国との距離のとり方が争点とされた今回の選挙。政権交代の背景に迫った。

■政権交代

 8年ぶりの政権交代、そして、初の女性総統就任を決めた最大野党・民進党の蔡英文氏。独立志向が強い民進党は、総統選と同時に行われた、議会にあたる立法院の選挙でも、過半数を超える議席を獲得し、大躍進を遂げた。

 一方、蔡氏との事実上の一騎打ちに敗れた、与党・国民党の朱立倫氏。現政権が進める「中国に近づく政策をさらに強めたい」と訴えたが結果は惨敗だった。

■若者が動いた

 選挙直前の2015年の年末。台北市郊外では、若者らがあるチラシを作っていた。そこには、大きな「落選」の文字。若者らは、今回の選挙で、与党・国民党の候補者を落選させようとする運動をしていたのだ。その中心にいたのは、林祖儀さん。

 林さん「馬英九総統が執政してきたこの8年、国民党の政策は多くの若者をがっかりさせた」

 林さんが、政治と真剣に向き合うようになったきっかけは、2年前、若者らが立法院を1か月にわたり占拠した“ひまわり学生運動”だ。国民党の馬英九政権が中国との「サービス貿易協定」の議論を、強引に進めようとしたことに反発。林さんも運動に加わっていた。就任直後から、経済成長を実現するため、中国に近づく政策を進めてきた馬英九総統。しかし、中国経済の減速もあり、成長率が目標に届かない中、若者の間で、「依存が強まり、統一を進める中国に飲み込まれるのではないか」という不安が広がっていったという。

 林さん「台湾の若者は、中国人を嫌いではないが、中国の独裁政権は恐れています」

■“中国寄り”に変化した金門島

 実際、馬英九政権になってから、大きく変化を遂げた地域がある。台湾本島から西へ270キロ離れた金門島だ。中国大陸を肉眼で確認できるほど近くにあるこの島は、台湾側の重要な軍事拠点。海岸線にある無数の鉄の杭(くい)は、中国の人民解放軍の上陸を防止するためで、1950年代には、戦いの最前線にもなった。

 そんな金門島だが、馬英九政権発足以降は毎日、中国からの観光客が大挙して訪れるようになった。中でも人気があるのは、台湾と中国の戦いの史跡。そして、もっとも多くの観光客が訪れるのが、アジア最大級の免税店だ。去年オープンした店では、利用客の9割が中国人で、酒やタバコなどを大量に購入していた。経済的な恩恵を与える中国人観光客だが、一方で、台湾の人たちが懸念する考えも持っている。

 中国人観光客「昔より台湾入境は簡単になった。馬英九総統は中国と台湾の統一に向け、歓迎すべき一歩を踏み出した」

■新政権、今後の見通しは―

 統一を進めようとする中国政府の思惑を知りながらも、中国に近づく政策を取り続けた国民党の方針に、台湾の若者たちは不信感を強めていったという。

 林さん「若者は、台湾は独立の存在であり、中国と統一する必要がないと思っています」

 国民党に反対する若者らの受け皿となり、躍進を遂げた民進党。蔡英文氏は、当面の中国政策について、現政権と同じ「統一でも独立でもない現状維持」を掲げた。中国との安定した関係を保ちながらも、若者らの懸念払拭にむけ、どう違いを見せつけるのか。難しい政権運営となる見通しだ。