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激戦!米大統領選 問われるリーダーシップ

2016年1月1日 23:45

 2016年、オバマ政権は任期切れを控えた総仕上げの年を迎え、11月には新しい大統領が誕生する。超大国アメリカを導く新たなリーダーは、そのまま世界のリーダーになる。激しさを増していく選挙戦を展望する。

 現時点で注目されるのは、野党・共和党の候補者指名争いだ。2015年秋までは乱戦もようだったが、年末になって不動産王・トランプ氏のリードが広がってきた。

 出馬表明直後からメキシコなどからの不法移民排除を声高に訴え、「国境に長城を造る」とぶち上げるなど、物議をかもしてきたトランプ氏。外交・内政ともに現実味のある具体的な政策を示さないこともあり、早晩脱落するとみられていたが、「ワシントンの政治に染まっていない」ことが好感され、民主党政権のみならず既存政治そのものに不満を抱く白人層などを中心に、支持を徐々に広げてきた。

 ターニングポイントが、フランス・パリでの同時多発テロ、カリフォルニア州での銃乱射事件だった。アメリカ国民に急速に広がったテロの脅威への不安は「イスラム教徒の入国禁止を提案する」というトランプ氏への追い風となった。

 「決定的な暴言」だとして国の内外から批判が噴出したが、支持率はかえって上昇。最新の世論調査(FOXニュース)では、共和党支持層のトランプ氏への支持率は39%で、2位のクルーズ上院議員(18%)らを引き離していることが明らかになった。

 「ワシントン・ポスト」紙の世論調査では、共和党支持層の59%もの人々が「イスラム教徒の入国禁止提案を支持する」と答えた。

 さらに、いくつかの政策課題を挙げ、共和党候補者のうち誰に任せたいか尋ねたところ、「テロへの対策」「移民問題」「ワシントン政治の変革」などで、共和党支持層のうち過半数が「トランプ氏に任せたい」と回答した。そして、「強い指導者は誰か」という質問でも断トツの54%だった。(2位はクルーズ氏とブッシュ氏がそれぞれ13%)

 民主党のオバマ政権は一貫して、人種、民族、宗教などあらゆる多様性とその権利を認め、社会的弱者に機会と政治的救済を与えてきた。

 その政治の網からこぼれ「取り残された」という不満と反発を覚えてきた白人の低所得層など、保守的な有権者のうっぷんは、トランプ氏のポピュリズム的言動に強く引き寄せられている。

 取り残された自分たちの声を代弁してくれる既存秩序の破壊者に、強いリーダーシップを見いだしているのだ。

 当初、本命視されてきたブッシュ元フロリダ州知事ら共和党穏健派の存在感は極めて薄くなっている。2月からは両党の候補者を1本化する「予備選挙」が始まり、選挙戦もいよいよ本格化するが、2月1日のアイオワ州、2月9日のニューハンプシャー州という出だしの2つの重要な州でトランプ氏が勝利する可能性もささやかれ始めている。

 一方の与党・民主党は、前国務長官のクリントン氏が手堅い戦いを繰り広げている。2015年秋以降、各種世論調査による党内の支持率は概ね6割近くで安定している。2番手にはサンダース上院議員が約3割の支持率で食い下がるが、形勢の逆転は難しいとみられている。

 クリントン氏は、銃規制の強化など共和党と対立する政策はもちろん、中間層の拡大を目指した具体的な政策も次々と示すなど、政策論でも先行している。

 しかし、クリントン氏の弱みは「既存政治そのもの」と見られる恐れだ。大統領夫人、上院議員、国務長官と、申し分の無い経験と実績を積み重ねてきたが、政治不信層にとって、それはそのままマイナス材料に映る。

 新しい大統領には「新しさ」を求める有権者も多い。「経験と実績」という土台にいかに新鮮なイメージを上乗せし、投票日まで維持していくかがクリントン氏の大きな課題だ。

 共和党で先行するトランプ氏やクルーズ氏が国民の潜在的な「感情」に訴えることで支持の取り付けに成功しているだけに、理性に訴えながら、現実的な政策でリーダーシップを発揮したいクリントン氏の姿勢がどこまで浸透するか注目だ。

 新しい大統領はどのようなスタイルで超大国を導くのか。いよいよ本格化する選挙戦では「アメリカのリーダーシップ」のありさまが問われることになる。