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「共謀罪」廃案…日本の法はテロに勝てるか

2015年11月26日 3:23
「共謀罪」廃案…日本の法はテロに勝てるか

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。25日は、「テロへの備え」をテーマに日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。

 ■「共謀罪」とは…犯罪実行の合意だけで罪?

 パリ同時多発テロ以降、テロへの警戒が日本でも高まっている。テロを防ぐ上でいま注目されている議論がある。それは、共謀罪と呼ばれるもの。共謀とは、2人以上の人が特定の犯罪を実行しようと具体的・現実的な合意をすること。犯罪が実行されなくても、罪になるという。

 「犯罪をしよう」と仲間で合意しただけで罪になるのだが、全ての犯罪が対象というわけではない。これまで国会に法案が出されているので、それをもとに内容を見てみると、暴力団による組織的な殺傷、悪徳商法のような組織的詐欺、犯罪集団が関与する重大な犯罪について共謀すること、などが対象となっている。テロは、犯罪集団が関与する重大な犯罪に含まれるという。

 政府は、共謀罪の対象はあくまでも殺人などの「重大犯罪」を「犯罪組織として行う」場合、そして「犯罪が実現する危険性が高い」場合だけだとしている。

 法務省は、共謀罪の対象に「ならない」ケースとしてこんな例を挙げている。会社の同僚数人が、居酒屋で上司の悪口で盛り上がり、「殺してやろう」と意気投合した場合。極端な例ではあるが、一般の生活の中でのやりとりは共謀罪には問われないと法務省は説明している。

 ■「共謀罪」国会で3回廃案…なぜ?

 しかし、この共謀罪には反対の声もある。日本弁護士連合会は、対象となる犯罪の範囲が広すぎることや、合意があったと客観的に決めるのは難しく、捜査機関の判断が恣意(しい)的になるおそれがあること。合意があったと立証するために、盗聴など個人の権利を損なう捜査の手法がとられるおそれがあることなどを挙げて、共謀罪の法制化に反対している。その結果、これまで国会に法案は提出されたが、3回廃案となってきた。長く議論されてきてはいるが、現在、法律にはなっていない。

 ■根強い「法制化必要」の意見

 それでもやはり、政府与党の中には「法制化が必要だ」という意見が根強い。その理由の1つに「国際組織犯罪防止条約」の存在がある。

 この条約は、国際犯罪に立ち向かうために各国が協力するもので、186の国と地域が締結している。でも日本は締結できていない。この条約を締結するには、「共謀行為」を罰する法律の整備が条件とされているので、共謀罪がない日本は締結を認められないのだと政府は説明している。ただ、共謀罪がないと本当に条約を締結できないのかどうかについても議論があり、詰め切れていないのが現状。

 ■政府は法制化を慎重に検討

 こうした状況を踏まえて、政府は年明けの通常国会では共謀罪の法案について再提出を見送る方針。安倍首相はこのように述べている。

 安倍首相「政府としては、重要な課題と認識しておりますが、これまでの国会審議等において、不安や懸念が示されていることを踏まえ、そのあり方を慎重に検討しているところであります」

 つまり、法制化を諦めたわけではないが、時期は急がないということだ。

 ■「非常事態宣言」日本では難しい?

 テロ対策の法整備をめぐっては、議論になっていることが他にもある。例えば、非常事態宣言の根拠となる法律。パリでのテロが起きてすぐにフランスでは非常事態宣言が出され、今も続いている。これにより、国境の封鎖や夜間の外出禁止などの措置がとられたほか、テロの容疑者を追う捜査当局が、裁判所の令状なしに家宅捜索することも可能になった。

 非常事態宣言は、国家の非常事態に対応するため、一時的に国の権限を強め、国民の権利を制限するもの。でも日本には非常事態宣言を出すための法律がない。この法律を作るには憲法改正が前提となる可能性があることなどから議論も進んでいない。

 ■安全と権利のバランス

 きょうのポイントは、「安全と権利のバランス」。テロへの備えは大切だが、テロ対策と国民の権利の間にはバランスが必要で、いざという時の安全を確保しながら、権利も守るためにどういう法律が適切なのか、私たちも自分のこととして考え、議論を深めていかなければならない。