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ミャンマー経済特区 日本企業の奮闘に密着

2015年10月9日 17:16
ミャンマー経済特区 日本企業の奮闘に密着

 9月、日本が官民挙げて開発したミャンマー初の経済特区の工業団地が開業した。軍政から民主化へ舵を切り、世界の注目を集めるミャンマー。この工業団地で奮闘する日本の企業を今村健太郎記者が取材した。


【拠点のワケは豊富な労働力】
 9月23日にオープンした、ミャンマー最大の都市・ヤンゴン近郊のティラワ工業団地。自動車の冷却部品・ラジエーターをつくる江洋ラヂエータ-は、インドネシア、中国に次ぐ世界3か国目の工場をここティラワに建設した。ミャンマーの一番の魅力は人件費の安さだということだ。江洋ラヂエーターミャンマー工場の江尻社長はこう語る。

 「ミャンマーは現時点でインドネシア、中国の6分の1、7分の1の安価な労働力で生産できる。東南アジアの中で豊富な労働力ということで、ミャンマーを第3の海外拠点の工場として設立を決めた」


【民主化で海外企業が進出】
 ミャンマーは2011年、民主化に大きく舵をきった。2010年に自宅軟禁をとかれた民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チー氏は、本格的な政治活動を開始。11月に行われる総選挙では政権交代するかが焦点だ。政治の変化と共にミャンマーには海外からの企業進出が相次いでいる。国際競争で優位に立ちたい日本は、ティラワ工業団地の電力や港などのインフラを円借款で整備。日系企業の集積を目指している。これまで契約した49社のうち、江洋ラヂエーターをはじめとする日系企業が半数を超える25社を占める。


【銀行も支店開設】
 また、ティラワ工業団地のオープン前日には、みずほ銀行ヤンゴン支店の開設記念式典が開かれた。式典に出席した麻生金融担当相は、笑顔でユーモアあふれるスピーチを披露。

 「金融担当大臣が銀行の支店の開設に出席したというのはたぶん過去に例がないと思います」

 ミャンマー政府は海外の銀行9行に支店開設を認めているが、このうち3行をみずほ銀行など日本の銀行が占めている。みずほ銀行の林頭取は、ミャンマーの重要性をこう語ってくれた。

 「私どもにとってアジアは最重要の地域。ここミャンマーも発展は遅れましたけど、成長率ではASEAN(=東南アジア諸国連合)の中でも著しい」

 IMF(=国際通貨基金)は、ミャンマーの今年度の経済成長率を8.5%と高い水準で見ている。ミャンマーへの期待と注目は高まっているが、その一方で課題もある。


【高成長の裏にある課題】
 ティラワ団地から車で約5分も走ると、景色は一変して小さな小屋がたちならび、舗装されていない道は土煙に覆われていた。江洋ラヂエーターも進出してわかった課題が少なくないという。それは――

 「インドネシアや中国で我々が経験して当たり前のようにあるもの自体が、なかなか手に入らないことを実際に感じている」

 ティラワ工業団地がオープンした時、実際に操業を始めていたのは江洋ラヂエーターを含めて2社だけだった。江洋ラヂエーターも大型の機材が予定通り到着しないなど困難を抱えた船出だったが、セレモニーの後、ミャンマーのニャントゥン副大統領などVIPの視察先に抜てきされた。ティラワ工業団地“第1号”として、江尻社長はその意気込みをこう語る。

 「ティラワ工業団地では契約から開業まで一番できている。ミャンマーの工場が今ある海外拠点工場の中でメーンの工場になるよう精進していきたい」

 ティラワ工業団地はいよいよ始動したものの、道路や電気などミャンマー全体のインフラ整備はまだまだこれからだ。それでも多くの日本の企業が未開の地での成功を信じて歩み始めている。