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中国の若者の間で広がる“知日”とは?

2015年9月25日 15:01
中国の若者の間で広がる“知日”とは?

 今月3日、中国では、日本との戦争勝利を記念する大規模な軍事パレードを行われた。“抗日”の宣伝を強める一方で、中国では、今、「日本のことを深く知ろう」という若者たちの動きも広がっている。その背景を原田敦史記者が取材した。

【抗日をアピールする中国】
 今年7月、中国政府が外国メディアを招いて行った取材ツアー。案内するのは、軍服姿の係員だ。

 案内役の女性「いいですか、皆さん。これは八路軍(人民解放軍)が使っていた3つのエリアです」

 この場所は、人民解放軍の前身である“八路軍”と旧日本軍との戦いをテーマにした娯楽施設。我々の昼食場所として指定されている場所なのだが、当時の様子が再現されていて、銃の模型なども置かれている。“帝国主義による中国の侵略に反対する”という標語が書かれている。参加した日本やイギリスなど約40人の記者らは「打倒日本」などの標語に囲まれて昼食をとった。7月以降、中国政府は外国のメディアや外交官に向けこうしたツアーを何度も実施。今月3日には、外国の首脳らを招いて“抗日戦争勝利を記念”するとして、初めて軍事パレードを行い、戦勝国の立場をアピールした。しかし、中国では政府の宣伝とは異なる形で、今の日本を深く知ろうという動きが広がっている。

【中国で人気の雑誌『知日』とは?】
 先月、上海で行われた本の見本市。会場で若者たちが熱心に見ている雑誌があった。『知日』といって、日本文化を紹介する雑誌で、今、中国で人気を集めている。熱心にページをめくり、何冊も購入する人の姿も―。

 『知日』とはどのような雑誌なのか、編集長の蘇静さんが取材に応じてくれた。

 蘇さん「これが我々が出版した『知日』です。毎号、テーマが違います」

 2011年に創刊し、テーマは“武士道”や“暴走族”など多岐にわたる。“日本人に礼儀を学べ”という特集では、正しい名刺の渡し方や、神社のお参りの仕方まで細かく説明。多いときには10万冊以上売れる人気ぶりだ。この日、行われた次回の内容についての会議。実は編集長の蘇さん、日本語がわからないため、日本語ができる編集者が具体的に調べて提案する。次のテーマは“お笑い”。

 女性編集者「“大喜利”は一種のゲームで、司会者が問題を出し、回答が良かった人が座布団をもらえるんです」

 1人の編集者は『笑点』などのいくつかのテレビ番組をまとめて紹介したいと提案。

 すると、蘇さんは、

 蘇さん「この番組(笑点)を見ると、衣装も伝統的で、クリエーティブな内容だ。だから、この番組を単独で扱うべきだと思う」

 広く浅い内容ではなく、1つの内容に絞り、より詳しい記事にするようアドバイス。政治的な話題を扱わず、ごく普通の日本の文化を徹底的に掘り下げるのが人気の秘密だ。

 蘇さん「日本を一つの角度から描くことによって、日本の問題を通じて、私たち、中国の問題を映し出すことができる」

【日中両国がより良い関係を築くには…】
 北京でアパレル関係の仕事をする張悦さんも『知日』ファンの1人。日本の音楽が大好きだという。部屋には、MISIAや中島美嘉のCDもあった。張さんに、中国政府の“抗日宣伝”が増えていることについて聞いてみると、

 張さん「政治に関心がない人にとっては、深く感じるものはないです」「時間がたつにつれて、みんなの日本の対する認識は、どんどん真実に近づいています」

 日本に興味を持つ若者が増えている背景。蘇さんとともに『知日』を創刊した作家の毛丹青さん。

 毛さん「日中関係がこじれていって、緊張感が高まっていくうちに、日本を知りたくなる意欲が爆発的に増えてきた」

 むしろ、毛さんは今、中国の姿を知ろうとしない日本の若者が多いことを心配している。

毛さん「これだけの中国の若者が日本のことを、奥深くまで知ろうとしている姿を、ぜひ日本人学生に見てほしい」

 過小にも、過大にも評価せず、まずは互いの真の姿を“よく知る”ということ。このスタンスはより良い隣国関係の築くヒントなのかもしれない。