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“安保”政府の言えないコト 政治部長解説

2015年7月15日 0:19
“安保”政府の言えないコト 政治部長解説

 15日にも委員会採決が行われる見通しとなった安全保障関連法案だが、国民の理解はなかなか進んでいないのが現状だ。これまで国民の理解が進んでこなかったのはなぜか、日本テレビ報道局・伊佐治政治部長が解説する。

■政府の立場
 政府の立場として、言いたくても言えないことがいくつもあって、どうしても説明が通り一遍、深まらなかったことがあります。悪く言えば何か隠しているんじゃないかという不信感です。典型的なのは中国の動きです。

■言いたくても言えないこと その1「中国」
 佐藤議員は、写真も見せて、中国の海洋進出の実情を具体的に説明しましたが、安倍首相は当初、閣議決定の際の会見で、中国については名前さえ口にしませんでした。来月発表する予定の戦後70年談話で、安倍首相は過去の談話で使われた「心からのおわび」などの表現を用いない姿勢を示しています。中国の反発は避けられません。ただでさえぎくしゃくする今、安保法制でも中国を刺激するのは出来るだけ避けたいところなんです。

 また、基本は、中国とフィリピンの問題である南シナ海の埋め立てをあまり声高に訴えると、今度はいざ法案が成立した場合、この地域の警戒監視活動などへの協力をアメリカから期待されすぎたら困るという事情もあります。

■言いたくても言えないこと その2「リスク」
 もう一つは、自衛隊員のリスクの問題です。政府は、リスクは高まらないと言い、最近では安倍首相はリスクはむしろ低くなると言います。任務が地球規模で拡大するのに、リスクが増えないというのはどうしても分かりにくいですね。戦争を防ぐ法案だから、長い目で見れば国民も自衛隊員も安全はむしろ高まるとの理屈ですが、額面通りには受け止めにくいのではないでしょうか。
 一つには野党の追及に備え、政府は審議する前から、リスクは増えないという答弁ラインを固めてしまい、そこから1歩も踏み出せない事情がありました。

■政府の本音はどこに
 ある外務省幹部と話した際、「安保法制は覚悟が必要になる」と話していました。日本が国際社会で責任を果たしていくためには、「自衛隊員に犠牲が出る可能性もあることを安倍首相は正面から語るべきではないか」と述べていました。リスク増大は認めるべきとの立場でしたが、「それを言った瞬間に、国会が止まってしまうだろうけど」とも話していました。人の命がかかった重大な論点ですが、正面からの議論は避けた印象です。

■国会審議を深めるには
 安保法案の審議が行われている特別委員会の部屋をのぞくと、やはりただならぬ緊張感が漂っています。野党側は、政府の答弁に少しでもスキがあれば徹底して追及するし、政府もがちがちに守りを固めてしまって、官僚が用意したとおりの答弁です。政治家らしく血の通った言葉で説得する姿が見えません。

 私はイギリスの議会を4年ほど取材したことがありますが、政府も野党ももう少し自由に議論を戦わす印象がありました。安保国会では、極端な事例ばかりに議論が集中して、大事な問題が置き去りにされた感があります。例えば、すぐに国際社会の要請が来てもおかしくないPKO業務についての議論はほとんど進んでいません。審議の時間は確かに長かったのですが、議論の深みが改めて問われています。