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イスラエル総選挙 苦戦の与党が勝利のワケ

2015年4月10日 16:34
イスラエル総選挙 苦戦の与党が勝利のワケ

 パレスチナ和平など、中東の安全保障の鍵を握るイスラエル。3月に行われた総選挙で苦戦が伝えられていたネタニヤフ首相率いる右派の与党“リクード”が勝利を収めた理由を、天野英明記者が探った。

 3月25日、大統領から組閣を要請されたネタニヤフ首相。極右政党や宗教政党と連立を組む方向で、選挙の前よりも右派色の強い政権が誕生するものとみられる。選挙が行われたのは3月17日。事前の世論調査では、経済改革を訴えた野党の中道左派“シオニスト連合”が優勢とされていたが、これを覆し、ネタニヤフ首相率いる“リクード”が圧勝した。ネタニヤフ首相の“国を守る強いリーダー像の演出”が功を奏したといえる。そして、演説で述べた内容は―。

 「エルサレムの領有権問題では一切妥協しない」

 新たな入植地について、決してパレスチナに引き渡さない姿勢を強調。また、投票前日には、国連などが求めている2国家共存という考え方に基づく将来のパレスチナ国家の樹立は認めないと宣言した。

 「首相に再選したらパレスチナ国家を実現させませんか?」

 インタビューでこう問う記者に、ネタニヤフ首相は―。

 「その通りだ」

 この発言は、投票行動に大きく影響したとみられている。

 建国以来、“国を守る”ための安全保障政策が選挙の最大の争点となってきたイスラエル。物価高や住宅価格の高騰などを受け、今回の選挙ではこれまで以上に国民の関心が経済問題に傾いていたが、ネタニヤフ首相はいわば原点ともいえる安全保障の重要性を投票直前まで訴え続け、流れを一気に引き戻したのだ。

 また、国民の多くが常にテロへの危機感を持ちながら生活しているという、この国特有の事情も後押しとなった。10年前に子どもと一緒にテロに巻き込まれたという男性を訪ねた。

 「エルサレムから帰る途中、私と子どもが車に乗っていたら、パレスチナのテロリストが銃を撃ってきました」

 そう語るデヴィッドさんの左足には、銃弾が貫通した生々しい痕が残っていた。デヴィッドさんはこう続ける。

 「私たちにはテロリストに対抗できる強い首相が必要です。ネタニヤフ首相だけがイスラエルの安全保障のために立ち上がってくれます」

 テロに対する危機感は、こんな場所でも垣間見えた。銃の訓練施設で練習する男性。射撃訓練に参加していたのは、軍人ではなく一般市民です。訓練の参加者はこう話す。

 「自分自身で身を守らなければならないんです」

 イスラエルでは一部のパレスチナ人によるテロ行為から身を守るために、銃の免許を取得してこうした訓練を受ける人が増えているという。訓練場と隣接する防犯グッズの店でも変化があった。店主は、催涙スプレーの売り上げが「ここ1年で倍増した」と話していた。

 国民の潜在的な危機意識に訴え勝利した“リクード”。ただ一方で、国内外の安全保障問題に対する強硬な姿勢が加速するのは必至で、パレスチナとの中東和平交渉の進展は当面難しくなりそうだ。