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米で活躍、“スゴ腕”日本人ヘッドハンター

2015年3月20日 14:52
米で活躍、“スゴ腕”日本人ヘッドハンター

 アップルやグーグルなどIT企業を次々に生み出すアメリカ・シリコンバレー。企業による激しい技術者の争奪戦が行われているこの地域で、人材を他社から引き抜く“スゴ腕”日本人ヘッドハンターを柳沢高志記者が取材した。

 「ITの聖地」とも呼ばれるアメリカ・シリコンバレー。この場所に2014年10月、日本人の一団の姿があった。日本からベンチャー企業8社の社長がやってきて、資金の獲得を目指し、投資家にプレゼンテーションを行うというイベントだ。実は、いま、シリコンバレーに進出しようという日本企業が増えている。

 こうしたベンチャー企業を支える日本人がいる。ヘッドハンター・立野智之さん(58)。シリコンバレー専門のヘッドハンターとして、日本やアメリカ企業など、年間約40社からの依頼を受け、他社から人材を引き抜くプロだ。

 この日の依頼者はビッグデータを解析するベンチャー企業「ONTROX」の有田一樹CEO。シリコンバレーへの進出を検討している。しかし、一番の悩みはいかに良い人材を確保するかだ。

 立野さん「ベンチャーだからといって給料が安いというのは間違いで、グーグルと同じくらい用意しないと来てくれません」

 依頼者に厳しい人材獲得競争の現実を突きつける。

 有田一樹CEO「いくら現地の技術者と話したって、本当にこの人ができるかどうかわからない。だから立野さんのような方にスキルセット(知識や技能)を見極めてもらわないと、なかなか雇えない」

 こうした企業のために、人材を他社から奪ってくるのがヘッドハンター。この日も立野さんは引き抜きの対象となる候補者の面談に向かう。ここからが腕の見せ所だ。

 立野さん「お会いするときは『カジュアルで行きますよ』と伝えている。コーヒー飲みながらリラックスしたほうが、その方の普段の雰囲気が出てきますので。フォーマルに聞くと答えにくいこともありますよね。『実は上司が気にくわなかった』とか…」

 この日は、日本企業の依頼を受け、他社に勤める技術者を引き抜く説得作業。喫茶店のカジュアルな雰囲気に似つかわしくない、生々しい金額が飛び交う。

 立野さん「いま、ビジネス開発ができる人を探しているのです」「年収は約1800万円になります。自宅での勤務も可能です」

 引き抜き候補者「確かに働く環境としては、すばらしい企業ですね」

 こうしたヘッドハンティングは、シリコンバレーではあちこちで目にする日常的な光景だ。技術者は平均3年ほどで会社を移っていくという。

 元々は日本企業のサラリーマンだったという立野さん。なぜ、シリコンバレーのヘッドハンターになったのだろうか。

 立野さん「イノベーション(技術革新)する人たちというのは話していて面白いんですね。会社側も面白いことを考えて、人材側も面白いことを考えていて、そういう場所はシリコンバレーにしかないので、ここなんだと思いますね」

 その“人集め”の秘けつが垣間見えるリストの一部を見せてくれた。そこには出身大学や企業名がずらりと並ぶ―これは、立野さんが作成したアメリカで活躍する日本人の若手ビジネスマンのリストだ。

 「人脈が我々の資産なので、各業界、各技術、各商品のキーパーソンに友達がたくさんいるんですね。友達の方に『誰か知らない?』と口コミで広げていく」

 普段から毎日、人と会い、そして、その紹介によって人脈を築き上げていくという。立野さんの人を口説き落とす“極意”とはなんだろうか?

 立野さん「どのくらい依頼を受けた会社のことが分かっていて、伸びそうだと確信を持って口説きにいくかですね。相手も人生賭けているわけですから、変な会社に行くわけにはいかないんですよね。そこは信頼関係で、私がどこまでそこの会社を理解しているかにかかっているんです」

 シリコンバレーで次々に生まれる最先端企業。その土台には、アナログな「人集め」の力があるようだ。