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中国の高速鉄道 海外への売り込み戦略とは

2015年3月6日 14:58
中国の高速鉄道 海外への売り込み戦略とは

 多くの国で導入が検討されている高速鉄道。日本もすでに、海外に新幹線の売り込みを進めているが、中国も高速鉄道を、国をあげて海外に売り込もうとしている。その戦略とは?中村光宏記者が取材した。

 2月、中国の旧正月にあたる春節期間中に、里帰りなどで約4500万人が高速鉄道などの鉄道を利用した。飛行機よりも割安の高速鉄道は、今や都市部で働く出稼ぎ労働者らにとってもなくてはならない足として定着している。

 その高速鉄道を製造している工場が、北京から東に約150キロに位置する河北省最大の重工業都市、唐山市にある。中国の政府系鉄道メーカー“中国北車”傘下の工場だ。この工場を中国政府は2月11日、海外メディアに公開した。

 ジュラルミンの板を切断したり削ったりして、高速鉄道の型を作る。塗装前の車両がずらりと並ぶスペースや、高速鉄道内部の電気系統の配線を細長い箱のようなものの中にまとめている工程も見ることができた。

 そして、完成したのは、北京・上海間にも利用されているタイプの車両。時速487.3キロという最高速度も記録した中国の誇る高速鉄道だ。その高速鉄道の運転席に座ってみた。風の抵抗を抑えるため、とんがっている先端部分は、運転手一人座るのがやっとの狭さだ。

 なぜ中国政府は、海外メディアに高速鉄道の工場を公開したのだろうか。中国鉄路総公司・韓江平宣伝部長は、会見でこう述べている。

 「2015年、我々は国の要求に応じ“一帯一路”と“世界への鉄道輸出戦略”を真剣に実施する」

 “一帯一路”とは、習近平政権が掲げる海と陸の“シルクロード”経済ベルト構想。この構想に基づき、陸路では高速鉄道などを中心に東南アジアや中央アジアからヨーロッパまでの輸送ルートを作ろうという壮大な構想だ。その実現へ向け、高速鉄道の輸出に本格的に動き始めた中国。その売り込み戦略とは?韓宣伝部長は優位性をこう語る。

 「何年間かの発展を経て中国の高速鉄道は、先進的な技術や安全面、コストパフォーマンスの良さがある」

 安全面で言うと、記憶に新しいのは4年前、浙江省・温州で40人が死亡した高速鉄道の追突事故だ。しかし会見では、この事故については一切、触れなかった。

 中国の高速鉄道は、2007年の営業開始からわずか7年間に、1万6000キロに達している。一方、日本の新幹線は、3月開業の北陸新幹線も含めて50年間かけ、約3000キロの距離。国土の広さや技術開発の面で一概には比べられないが、中国の高速鉄道が急速に拡大・発展しているのは事実だ。そうした高速鉄道網建設や運行の実績から、安全性をアピールしているのだ。

 さらに、日本を含む先進国に比べ、中国の最大の強みは安い人件費などによるコストパフォーマンスの高さだと言われている。2014年末には、中国の2大鉄道車両メーカーが合併。より競争力を高め、国を挙げて海外での受注競争に挑もうとしている。

 2014年9月、訪日したインドのモディ首相との首脳会談で、新幹線を売り込んだ安倍首相。その直後に、今度は中国の習主席がインドを訪問し、モディ首相に高速鉄道を売り込んでいる。中国駐インド大使はこう話してくれた。

 「インドと中国は高速鉄道について積極的に相談している。大きな問題はないはずです。今は実行の可能性を研究している」

 中国は、20か国以上と高速鉄道の協力や協議を行っているという。低いコストと外交力を武器に、国を挙げての海外進出へ本格的に乗り出した中国。日本にとってかなり手強い相手になりそうだ。