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危機感も…“アウシュビッツの記憶”後生へ

2015年2月20日 17:21
危機感も…“アウシュビッツの記憶”後生へ

 ナチスドイツによって大量虐殺が行われたアウシュビッツ収容所の解放から70年を迎えた。当時を知る人が減る中、風化の防止に取り組む収容所のいまを渡辺祐史記者が取材した。

 ポーランド南部にあるアウシュビッツ強制収容所。解放から70年となった先月27日、追悼式典が行われた。ドイツやフランスの大統領など各国の首脳や要人が並ぶ中、過酷な収容生活を経験し、生き延びた元収容者は、形を変えて過ちが繰り返される今の世界への危機感を口にした。

 生存者の代表「世界中の指導者が自ら記憶し、人々に記憶させ続ければ、ホロコーストも他の戦争での残虐行為も、パリでのテロ事件も、二度と起きることは無いはずだ」

 第2次大戦中、アウシュビッツにはユダヤ人やポーランドの政治犯、ソ連軍の捕虜などが収容された。人類史上最悪の犯罪の跡が、現在も当時に近い形で保存されている。

 渡辺記者「収容者はこのゲートを入って中に入ったそうです。ゲートの上には“働けば自由になれる”と書いてあります…」

 その言葉とは裏腹に、ここでは約110万人が虐殺された。

 式典直前、加害国ドイツの学生たちがここを訪れた。

 そこで学生たちが見たのは、シャワー室に見せかけ天井から毒ガスを投入し、一度に大勢の人を殺害した「ガス室」、死亡した女性からも刈り取り、布などの原料に使われた髪の毛、あるいは、到着後すぐにガス室に送られたり、人体実験の実験台にされたりした子どもたちの遺品―自分たちの祖父母の時代のドイツが生みだした“犠牲”だ。

 ドイツの学生「ホロコーストを見て、とてもショックです。これほど残酷だとは、知りませんでした」

 学生たちは、元収容者のゾフィア・ポスミシュさん(91)からも直接話を聞いた。彼女は、解放された後も当時の恐怖を突然思い出すことがあったという。

 ポスミシュさん「ある瞬間、ドイツ語で人を呼ぶ声が聞こえました。とてもきつい声でした」「私の収容所にいた職員の嫌な声を思い出しました」

 学生たちからの“私たちの世代に何を望むか?”という質問には―

 ポスミシュさん「注意深く、そして批判的でいてください。なぜなら、なんらかのイデオロギーを妄信している人間は、さまざまな悪いことを起こすかもしれないからです」

 学生たちは今回、ドイツの議会が主催する研修でアウシュビッツを訪問した。ドイツでは「ネオナチ」と呼ばれる極右グループが勢力を伸ばしているといわれるほか、フランスで連続テロが起きてからは、イスラム教徒を敵視するグループが集会を行うなど、外国人や宗教的な背景が異なる人たちを排斥しようという動きも表面化している。

 こうした現状への危機感もあり、ドイツでは、アウシュビッツを訪問する学生に旅費などの一部を援助する自治体もある。

 ドイツ議会の職員「(ナチの過去を語り継ぐのは)ドイツ国家が行うものであり、国民全体が共通認識を持っている。当然、次の世代にも継承されなければならない」

 同じ過ちを繰り返さないため、若者たちにどう働きかけていくのか。アウシュビッツ自体も様々な取り組みを行っている。博物館側は、定期的に学校の教師を集めた勉強会を開催。また、ホームページ上で、生存者の証言を公開し、いつでも教材に使えるようにしている。

 “戦争の記憶を語り継ぐことの重要性”は誰もが認識している。それでも記憶が風化していく今、ドイツやポーランドは、国を挙げて過去への取り組みを地道に進めている。